氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(わたしの身にもおこるなんて……。でも、どうしてベッティが……?)
 アデライーデは昼間に見かけた侍女のことを聞こうとしただけだ。

 龍は他者に知られてはならない情報を制限する。
 何事もないかのように過ぎている日々にも、それとは気づかず、龍の力が託宣者たちを取り巻いているのだ。そう思うとアデライーデは漠然(ばくぜん)とした恐怖を感じた。

「お姉様……?」

 考え込んでいるアデライーデを、リーゼロッテが気づかわし気に見上げている。それに気づき我に返って笑顔を作る。

「なんでもないのよ。……次に会えるのは白の夜会ね」
「お姉様は、夜会では眼帯(がんたい)をお付けになるのですか?」
「そうね。正直言って、ないほうが鬱陶(うっとう)しくなくて楽なんだけど、見ていて楽しいものじゃないでしょう? 普段付けてるものだとマダムに怒られるから、夜会(やかい)仕様(しよう)の眼帯をドレスと一緒に作ってもらってるのよ」

 今は実家にいるということもあってはずしっぱなしだが、アデライーデは左目の上下にかかる傷を隠すために、普段は眼帯を付けて過ごしている。不躾(ぶしつけ)な視線にはもう慣れたが、同情の目で見られるのはたまらく不快だった。

「まあ、そうなのですね。昨日のドレス、アデライーデ様の雰囲気にぴったりでとってもお似合いでしたわ」
「そう? ありがとう。リーゼロッテのドレス姿も楽しみにしてるわ」
「マダム・クノスペは、本当にわたくしのドレスを一から作り直すのでしょうか……」
「やるといったらマダムはやるわ。妥協(だきょう)という言葉を知らないのよ、あの人は」

 遠い目をしてアデライーデは言った。

「でも、せっかくお義母(かあ)(さま)がデザインを考えてくださったのに……」
「一生に一度のデビューだもの。クリスタ様も賛成してくださると思うわよ。今仕立てているドレスは別の機会にお披露目(ひろめ)すればいいのだし」

 確かに今作ってもらっているドレスはどちらかというと可愛らしいデザインで、オクタヴィアの瞳にはそぐわないかもしれない。ジークヴァルトから贈られたオクタヴィアの瞳は、とにかく恐れ多いほど豪奢(ごうしゃ)なものだった。

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