氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「明日は早くに出ないといけないから、わたしはそろそろ失礼するわ。リーゼロッテも気を付けて帰るのよ」

 リーゼロッテの頬をするりとなでる。

「はい、お姉様もお気をつけて」
「ありがとう、リーゼロッテ」

 アデライーデはそう言うと、リーゼロッテの頬にちゅっとキスをした。
 ()れたビョウのように頬を赤く染めるリーゼロッテを「ああん、かっわっいっいぃっ! やっぱり持って帰るぅっ」と悶絶(もんぜつ)しながらかき抱く。

「いい加減にしろ」

 そのタイミングでジークヴァルトが、()れたようにアデライーデからリーゼロッテを引きはがした。

「ん、もう! 心の(せま)い男は嫌われるって言ったでしょ」

 不服そうに言ってはみたが、ジークヴァルトの腕の中に納まるリーゼロッテをながめて、アデライーデは満足そうに口角を上げた。

「じゃあ、リーゼロッテ、また夜会で会いましょう」

 ジークヴァルトごとリーゼロッテを抱きしめると、アデライーデは晩餐(ばんさん)の部屋を後にした。

 廊下を進みながらアデライーデは顔にそっと指を()えて、その傷跡(きずあと)を確かめようになぞった。

(やっぱりリーゼロッテのそばにいると、傷のうずきが消えるわ)

 表情を動かすたびに感じていたひきつれる感覚が、今ではほとんどない。ダーミッシュ領でリーゼロッテと過ごした時期から、慢性的な頭痛にも悩まされることが少なくなり、ここ数年変化のなかった傷跡が以前よりも薄くなってきていた。

「聖女の力……ね」

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