氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
◇
「リーゼロッテ様、道中お気をつけて」
公爵家のエントランスホールに大勢の使用人たちがずらりと並んでいる。その真ん中で、リーゼロッテはジークヴァルトと向き合って立っていた。
「ヴァルト様、今回もいろいろとよくしてくださってありがとうございました」
「ああ」
そう言いながらジークヴァルトは手に持った菓子を差し出してくる。いったいどこに隠し持っているのか、いつも手品のように出てくる菓子に半ば感心しつつ、リーゼロッテは素直に口を開いた。
もう羞恥心には蓋をした。無の境地で受け入れることに慣れてしまった自分が少し怖く感じるが、使用人たちの目の前で「あーん」と言えるジークヴァルトに比べればまだましというものだ。
(ジークヴァルト様には恥ずかしいって感情がないのかしら……?)
そんなことを思いつつ、差し出された菓子を口にする。今日は大好きなチョコレートだ。安定のとろけるおいしさに、リーゼロッテの頬はいつものようにへにゃりと緩んだ。
口の中のチョコがなくなると、何か言いたげなジークヴァルトがじっとこちらを見ていることに気づく。どうして反応していいかわからず、とりあえずその瞳を黙って見つめ返していると、横からさっと小さな箱が差し出された。
見ると家令のエッカルトがチョコが数粒入った箱を、恭しくリーゼロッテに向けて掲げていた。
「……エッカルト?」
「さ、リーゼロッテ様もご遠慮なく……」
さらにずいと箱を差し出され、どういうことかと困惑気味にジークヴァルトを再び見上げた。ジークヴァルトは無言のまま、先程と同じように自分の顔をじっと見つめている。
(この状況で、自分で食べろ……ということではなさそうね)
「リーゼロッテ様、道中お気をつけて」
公爵家のエントランスホールに大勢の使用人たちがずらりと並んでいる。その真ん中で、リーゼロッテはジークヴァルトと向き合って立っていた。
「ヴァルト様、今回もいろいろとよくしてくださってありがとうございました」
「ああ」
そう言いながらジークヴァルトは手に持った菓子を差し出してくる。いったいどこに隠し持っているのか、いつも手品のように出てくる菓子に半ば感心しつつ、リーゼロッテは素直に口を開いた。
もう羞恥心には蓋をした。無の境地で受け入れることに慣れてしまった自分が少し怖く感じるが、使用人たちの目の前で「あーん」と言えるジークヴァルトに比べればまだましというものだ。
(ジークヴァルト様には恥ずかしいって感情がないのかしら……?)
そんなことを思いつつ、差し出された菓子を口にする。今日は大好きなチョコレートだ。安定のとろけるおいしさに、リーゼロッテの頬はいつものようにへにゃりと緩んだ。
口の中のチョコがなくなると、何か言いたげなジークヴァルトがじっとこちらを見ていることに気づく。どうして反応していいかわからず、とりあえずその瞳を黙って見つめ返していると、横からさっと小さな箱が差し出された。
見ると家令のエッカルトがチョコが数粒入った箱を、恭しくリーゼロッテに向けて掲げていた。
「……エッカルト?」
「さ、リーゼロッテ様もご遠慮なく……」
さらにずいと箱を差し出され、どういうことかと困惑気味にジークヴァルトを再び見上げた。ジークヴァルトは無言のまま、先程と同じように自分の顔をじっと見つめている。
(この状況で、自分で食べろ……ということではなさそうね)