氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「リーゼロッテ様、どうぞ道中お気をつけて。またここにお帰りになられる日を、使用人一同、首を長くしてお待ち申し上げております」

 エッカルトが深く腰を折ると、周囲の使用人たちも一斉にリーゼロッテに礼をとった。

「ええ、ありがとう」

 内心、引き気味に返事をしたリーゼロッテの髪が、不意にすいと()かれた。驚いて見上げると、静かな目をしたジークヴァルトが、無言でゆっくりと蜂蜜色の髪に指をくぐらせている。

 頭をなでられるのは久しぶりのことだ。
 少しだけ驚いたが、リーゼロッテは黙ってそれを受け入れた。見つめあいながら、ジークヴァルトの指がゆっくりと髪を梳いていく。

(これはいつまで続くのかしら……?)

 何も言わずに頭をなで続けるジークヴァルトに、リーゼロッテの頬が次第に赤く染まっていった。
 公開羞恥(しゅうち)プレイはもう勘弁(かんべん)してほしい。そう思って、リーゼロッテはそっとジークヴァルトの胸元のシャツをつかんで小さく引っ張った。

「…………!」

 ジークヴァルトは一瞬驚いたように目を丸くして、これまた驚いたようにリーゼロッテの髪に(から)めた手を慌てて引っ込めた。あまりにも性急(せいきゅう)な動作に、リーゼロッテの長い髪がふわりと宙を舞う。

「無意識だ」

 そう言ってふいと顔をそらしたジークヴァルトは、宙を見据(みす)えたままぎゅっと眉根を寄せた。

「あの、ジークヴァルト様……」
「なんだ?」
「わたくし、その……ヴァルト様に頭をなでられるのは、い、いやではありませんから……」

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