氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 可能な限り距離を置こうと、ベッティの頭を片手で(つか)んで遠ざけていたエーミールが、リーゼロッテに向かって冷たく叫んだ。目の前の惨劇(さんげき)に動揺しながらも、冷静な判断は忘れない。

 ヨハンにベッティを押しつけると、エーミールはそのままリーゼロッテに向かって歩いて行った。騎士服が汚れていないことを確かめて、内心ほっと息をつく。

「こちらは大丈夫ですから、あなたは早く馬車に戻りなさい」
「ですが、ベッティが……」

 リーゼロッテの言葉を無視して、エーミールはその手を取った。背中に手を回して有無を言わさず馬車へと逆戻りさせる。
 流れるようなエスコートにリーゼロッテは逆らえず、あっさりと馬車の扉の前まで連れ戻された。さすがはイケメン貴公子(きこうし)なだけはある。

「さあ、中に戻って」

 ぐいと手を引かれてリーゼロッテはしぶしぶ馬車の中へと乗り込んだ。椅子に座る前にベッティの様子を(うかが)うと、ヨハンが甲斐甲斐(かいがい)しく世話をしている様子がみてとれた。

 なかなか座ろうとしないリーゼロッテに()れたように、エーミールが馬車の中へ半身を乗りあげた。

「なっ」

 馬車の内部の濃厚な空気に、エーミールは思わず顔をしかめた。
 この馬車はリーゼロッテを守るために、ジークヴァルトの力が覆っている。そのこと自体はエーミールは承知していたのだが、馬車の中にはリーゼロッテの聖女の力が息苦しいほどに充満していた。

(なんなのだこれは……)

 リーゼロッテの濃密(のうみつ)な力が、ジークヴァルトのそれによって(おお)われて、まるっと馬車の中に包みこまれている。
「グレーデン様……?」と不思議そうに首をかしげているリーゼロッテは、その異常さにまったく気づいていないようだ。

「……確かにこれでは酔うのもわかる」

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