氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 急に言われても占ってほしいことなどすぐには思いつかない。大切な主人に仕え、恵まれた環境で充実する毎日だ。十分すぎる給金もいただいてお金に困っているわけではないし、健康運と言っても体力にはすこぶる自信がある。

 エラが返事をしあぐねていると、占い師はくすくすと笑いを深めた。

「考えているところ悪いけれど、水晶がもう答えを出してしまったようね」

 その言葉と共に丸い水晶がほのかな白い光を放つ。その光は球状に広がって、次第にまばゆく室内全体を強く照らした。
 かざした指先をすり抜けた光が、占い師のヴェールをいたずらな風のようにはためかせる。まるで占い師自身が光をおびているかのごとく、白光がその体に(まと)いついた。

 貴族街(きぞくがい)聖女(せいじょ)とは誰が言い出したのか、その姿は純白のドレスを纏う本物の聖女が体現したかのごとくに思えて、その現実離れした光景をエラはただ呆気(あっけ)に取られて(なが)めていた。

 貴族街の聖女が伏せていた瞳を上げる。明るく照らし出された室内で、ブルーグレイだと思っていた瞳は青みのある紫だったことが分かる。その開かれた菫色(すみれいろ)の瞳は、エラを見ているようで見ていない、そんなうつろな印象を与えた。

(なんじ)、新しき風となる者……()(ことわり)のまま、ただ流れゆく……ゆえに古きが強く()がれ、また同じく強く(うと)みし存在……」

 うわ言のように発せられた言葉とともに、水晶がさらに強く光を放つ。その(まばゆ)さにエラは思わず目をつぶった。

 しばらくの後、エラの耳に、じじ……という蝋燭(ろうそく)の炎が()れる音が届く。そっと瞳を開けると、そこは始めと同じ蝋燭の炎のみがほのかに照らす室内だった。

「……あなたは選ぶ側の人間ね。こんなに占いが克明(こくめい)に出るなんてなかなかないわ」

 先ほどとは違う意思を持った声が向かいから発せられる。顔を上げると手をかざしたままの状態の貴族街の聖女が、やさしげに目を細めていた。

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