氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エラが青い顔で駆け寄ってくる。リーゼロッテは震える胸を押さえながら、転んだ令嬢へと視線を向けた。
 令嬢は周囲にいた紳士たちに助け起こされている。その顔は真っ青でリーゼロッテ以上に震えている様子だ。令嬢が顔を上げた瞬間、リーゼロッテと目が合った。紳士の手を離れて令嬢がものすごい勢いでこちらに駆け寄ってきた。

「も、申し訳ございません! わたし、とんでもないことを!!」

 泣きじゃくりながら令嬢はリーゼロッテの前で(ひざまず)いた。恐らく自分より爵位の低い令嬢なのだろう。不敬(ふけい)を働いたと勘違いして動揺しているに違いない。

「わたくしは大丈夫です。それよりもあなたにお怪我(けが)はございませんか?」

 駆け寄ってこられるくらいだ。大きな怪我はしていないのだろう。そう思いつつも、人間、アドレナリンが出ると、痛みなど忘れてしまうこともある。

「は、はい。わたしは何ともありません……」
「それならよかったですわ。ですが念のために、きちんとお医様にみてもらってくださいませね?」
「あ、ありがとうございますっ」

 すすり泣きながら令嬢は頭を下げた。

「もうお立ちになってくださいませ。ジークヴァルト様がいてくださいましたから、わたくしは本当に大丈夫ですから」

 涙をためて見上げてくる令嬢に、安心させるように笑みを作る。しかし、令嬢が(ひざ)をついているにしても、やたらと令嬢との距離が遠いように感じる。
 いつもと違う視界の高さにリーゼロッテは、ジークヴァルトに抱き上げられていることに今さらながら気がついた。しかも横抱きではなく、お尻を抱えられる子供抱きだ。

 自分は大丈夫だとどや顔で言い切った分、羞恥心(しゅうちしん)半端(はんぱ)なくこみあげてくる。抱っこされた状態で、物理的にも態度的にも上から目線にもほどがある。
 リーゼロッテは頬を赤らめて、すぐそばにあったジークヴァルトの顔を覗き込んだ。

「ヴァルト様……もう降ろしてくださいませ」
「却下だ」

 いつものようにあっさり返されて、そのままリーゼロッテは夜会の会場の中をジークヴァルトに運ばれていく。貴族たちの視線が痛い。

(善処するって言ったくせに……!)

 かつて王城の廊下でそうしたように、リーゼロッテはジークヴァルトの首にしがみついて、その顔を隠すより他なかった。


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