氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(あっ……!)

 紳士とペアになって踊っている令嬢のスカートの(すそ)に、貞子とは別のどす黒い異形の者がしがみついている。くるりと回った令嬢のスカートがふわりと広がり、遠心力で異形の者も一緒に回転するのが目に入った。

 その禍々(まがまが)しさにリーゼロッテは身をこわばらせる。異形は(みにく)いその手で令嬢のスカートをぐっと大きく引っ張った。
 その時、リーゼロッテは甲高い異形の(わら)(ごえ)を聞いた。耳障(みみざわ)りで悪意に満ちたそれにぶわりと全身に鳥肌が立つ。

 目の前で令嬢が悲鳴を上げた。貞子紳士の手を離れ、スライディングするようにこちらへと倒れこんでくる。

 ちっと舌打ちをしてジークヴァルトが異形に向けて力を放ち、憎々(にくにく)()な声を上げながら異形の者は消し飛んだ。しかし令嬢はそのままバランスを崩してこちらへと向かってくる。踊っているリーゼロッテも咄嗟(とっさ)に動きが止められず、このままでは令嬢とぶつかるのは避けられない。

 ぶつかるだけならまだしも、相手は自分の足元に転がり込んできている。ヒールのあるこの靴で()()こうものなら、令嬢は無傷では済まないだろう。

 これはもう自分も倒れこむしかない。今こそ領地の屋敷で転びまくった成果を見せるときだ。どんとこいな気持ちで淑女らしく可憐(かれん)に転んで見せようと、ジークヴァルトを巻き込まないよう、リーゼロッテは咄嗟(とっさ)にその手を離した。

「ふあっ」

 次の瞬間、リーゼロッテは宙を舞っていた。自分の腰に手を()えて軽々と持ち上げているジークヴァルトの顔を見下げながら、リーゼロッテはふわりと転んだ令嬢の上を飛び越えた。

 リーゼロッテの体は床に着地することなく、そのままジークヴァルトの腕の中に抱きとめられる。同時に曲が終了し、一瞬の静寂(せいじゃく)の後にダンスフロア全体がわっと大きくどよめいた。

「リーゼロッテお嬢様!」

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