氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 この人はいずれ誰かに傷つけられる。エマニュエルにはそんな気がしてならなかった。
 ジークヴァルトやエラのように、過保護なままではいけないと思いつつ、自分自身もどうすればリーゼロッテを守れるだろうと、最近ではそんなことばかり考えている。
 可憐(かれん)無邪気(むじゃき)なだけの令嬢だったら、ここまで肩入れすることはなかっただろう。

(本当に不思議なお方だこと……)

 幾度(いくど)となく思ったことを、エマニュエルは再び胸中で繰り返していた。

  一時間も馬車が進めば、外の景色が雑多(ざった)な街並みへと変化していく。王都へと入った証拠だ。整備が行き届いた大通りにさしかかると、リーゼロッテは下げられたカーテンの隙間から物珍しそうに窓の外を眺めた。

 貴族令嬢なら大抵の者が、王都にある貴族街で買い物を楽しんだりしているが、リーゼロッテは(しょ)事情(じじょう)により引きこもりな深窓(しんそう)の令嬢生活を続けてきた。馬車から見える王都の街並みは、目に映るものすべてが新鮮だった。

(ふあっ、これぞ異世界って感じ!)

 本当はカーテンを開けてじっくりと観察したいのだが、公爵家の馬車は何かと注目を()びやすい。中に乗っているのは誰だと、好奇心の目にさらされるのだ。

(残念だけど、公爵家の名に泥を塗るようなまねはできないものね……)

 いつか王都へ買い物に行ってもいいかジークヴァルトに聞いてみよう。お忍びで平民の格好をするのが、ラノベでのデフォだろう。生粋(きっすい)(もと)庶民(しょみん)としては、平民に(まぎ)れるのはお茶の子さいさいだ。

 そんなことを思いながら、リーゼロッテは名残(なごり)()しそうに窓から顔を離した。先ほどから、馬車が進んではすぐ止まるのを繰り返している。馬車通りが渋滞していて、なかなか前に進まないようだ。あまり窓からのぞき込んでいると、通行人と目が合いそうだった。

「ずいぶんと道が混んでいるようね」

 エマニュエルがつぶやくと、馬車を止めた御者が窓越しに声をかけてきた。

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