氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「やはり後ろを走って追いかけているのかしら……」
「後ろを……?っふ、だとすると、相当な速さで走らねばなりませんね。あとでヨハン様に聞いてみましょう」

 リーゼロッテの言葉にエマニュエルは、吹き出すのをこらえながら言った。ヨハンは護衛として、馬車を追うように馬を駆っているはずだ。カークが後ろを走っていれば、邪魔で仕方ないかもしれない。

 馬車が軽く揺れて、リーゼロッテが抱える小箱の中身がことりと音を立てた。アンネマリーから預かった大事なものだ。
 (ひざ)の上で箱をぎゅっと握りしめる。これを返されたハインリヒ王子は、一体何を思うのだろう。

「……リーゼロッテ様……アンネマリー様と何かあったのですか……?」

 泣きはらした目をして戻ってきたリーゼロッテに一度は目をつぶったが、ジークヴァルトに報告しないわけにはいかないだろう。クラッセン家の侍女が上手に処置してくれたようだが、エマニュエルの目はごまかされなかった。

 リーゼロッテはしばし逡巡(しゅんじゅん)した後、膝の上の小箱を見つめたまま口を開いた。

「……白の夜会が終わったら、アンネマリーがまた隣国へ行ってしまうと言うので……それで……わたくしさみしくなってしまって……」

 リーゼロッテはそのまま押し黙った。嘘ではないのだろう。リーゼロッテの様子を見て、エマニュエルはそう思った。

(でも、それがすべてではないようね……)

 それ以上言いたくないということは、アンネマリーの個人的な問題か。ふたりが仲たがいしたとは思えないので、エマニュエルはそう結論づけた。

(リーゼロッテ様は他人に同調しすぎるきらいがあるから、これから先も心配だわ……)

 大切な従姉を思う涙ならば、今日の所はこれ以上問い詰めるのは無粋だろう。

(エラ様なら、もっと上手にお(なぐさ)めできるのだろうけど)

 心配をかけまいと淑女の笑みを浮かべるリーゼロッテを見て、エマニュエルはたわいもない話題を振って話を逸らした。わかりやすいくらいにほっとしているリーゼロッテを見て、思わず苦笑してしまう。

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