氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「イグナーツ?」
「ああ、ゲオ様ね、ゲオ様。そのゲオ様は、無類の女好きだし、なーんにも遠慮することはないよ」
「ゲオ様は愛妻家じゃないの?」
「愛妻家なら奥さんは逃げていかないんじゃないかな?」

 ルチアが訳が分からないといったふうに首をかしげた。

「ねえ、ルチア。ルチアって今いくつ?」
「何よ、急に」
「いや、こーんなに小さいのに、苦労してるんだって思ってさ」

 カイが押しつけるようにルシアの頭に手を置くと、ルチアは払いのけるようにその手を持ち上げる。

「失礼ね! わたしはもう十三よ。年が明けたらすぐ十四になるんだから!」

 子供扱いが嫌だったのか、ルチアはカイの手をぺいと投げ捨てた。カイはそれをおもしろそうにみやっている。

(十三か……やっぱり思ってたより上だったな)

 だがそう言われても目の前のルチアは十歳かそこらにしか見えない。あと一年ちょっとでこの国での成人を迎える年になるとは思えない発育不良ぶりだ。今までの生活のレベルの低さが伺える。

「なんにせよ、そのお金があれば、母さんは病院できちんとした治療を受けられるんじゃない? 母さんは病院に任せて、ルチアはイグナ……ゲオ様が戻ってくるまで、こんがり亭にいればいいよ」
「こんがり亭に?」
「ああ、それがいいでやすな。何、安心してくだせぇ。屋根裏でよければ使っていない部屋がありやすし、あっしには死ぬほど愛する恋人がおりやす。カイ坊ちゃんのルチア殿に、狼藉(ろうぜき)を働くなんてことは万が一にもありやせんぜ」
「だからわたしはカイのものじゃないってば!」

 だんっと足を踏み出してルチアがダンを(にら)みあげた。

「なぁにぃ。今日は随分と騒がしいのねぇ」

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