氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「確かに、ルチア、あなたちょっと臭いわね。いいわん、あたしが隅々までぴかぴかに磨いてあげる。とっておきの服も貸したげるから、それで母さんに会いに行きましょ」
「えっいやよ! 絶対にだめ!」

 ルチアが怯えたようにカイの背に隠れた。手をワキワキとしながら迫ってくるフィンにつかまらないように、カイの背中をぎゅっと掴んだ。

「はは、ダメだよフィン。フィンは心は女でも、体は立派な男でしょ。ルチアが怖がってるから、お風呂はひとりで入らせてあげて」
「そうでやす。フィンが子供と言えど、他の人間の肌に触れるなんて……あっしは想像しただけで気が狂いそうでやすよ」
「ま! ダンがそう言うなら、あたしあきらめちゃう! ごめんなさい、ルチア、そういう訳だから……」
 申し訳なさそうに言うフィンに、ルチアは「いいのよ別に、気にしないで!」と必死に叫んだ。

 よくわからない流れで風呂を借りることになったルチアは、首をかしげながらフィンに連れられて行った。しばらくするとフィンだけが戻ってくる。

「驚いたわん。あの子、お風呂の使い方、全く知らないの。今までは、真冬でも水で行水していたそうよん」
 そこまで言うと、フィンは不意に涙ぐんだ。

「ずっと、病気の母親を支えて、あんなに小さいのに、ほんと不安だったでしょうにぃ……」
「ねえ、フィンも一緒に行ってあげなよ。()()がいた方がルチアも安心するんじゃない?」
「ん、まあ! それもそうねん!」
「ここはオレが留守番しとくからさ……あれ? ルチア、もう出てきたの?」

 (からす)行水(ぎょうずい)よりも短いのではないだろうか。いつの間にかルチアがそこに立っていた。フィンに渡された服を着て、ルチアはほかほかと湯気を立てている。フィンの膝丈(ひざたけ)のワンピースは、ルチアにはぶかぶかすぎて(すそ)を少し引きずっていた。

「だって、母さんが心配で……」

 うつむくルチアの前で(ひざ)をつくと、フィンはルチアの腰を赤いリボンできゅっと絞った。即席のベルトになって、長い(すそ)もちょうどいいくらいに収まった。長い(そで)ははみ出した分を幾度か折り長さを調節する。

「あらん、なかなかお似合いじゃない? あとでサイズのあったお洋服もいっぱい用意しましょ。でも、まずは母さんねん! さあ、すぐに出発するわよん!!」

 毛皮のコートを羽織ったフィンがルチアの手を引いて、こんがり亭を出ていく。その後をダンがタンクトップ姿のまま追っていった。

(ルチアの母さん、驚いて心臓止まらないといいけど)
 そんなことを思いながら、カイはひらひらと手を振って三人を見送った。

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