氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ときにベッティ。オレの出した課題は進んでる?」
「……候補ならおひとりだけみつけましたよぅ」

 カイの言葉にベッティの表情がさらに曇った。カイはひどい男だと思う。自分にそんな約束をさせるのだから。

「ふうん。ちなみに誰か聞いてもいい?」
「……リーゼロッテ様ですぅ」

 その答えにカイは目を大きく見開いた。

「へえ、意外だな。ベッティ、彼女みたいな()、大っ嫌いでしょ?」
「嫌いですよぅ。虫唾(むしず)が走るくらい大嫌いですぅ。……だけど、それとこれとは別問題でしょうぅ? わたしの自尊心なんか、あの方の前では羽虫(はむし)も同然ですよぅ」
「そこまで卑下(ひげ)することもないと思うけど」
「……人にはそれぞれ役割というものが存在しますぅ。あの方は全てにおいて選ばれた側の人間……()えのきくわたしなんかと同列に扱う方がどうかしてますよぅ」
「まあ、確かにね」

 カイは静かにジョンを見やった。泣かなくなった泣き虫ジョンは、何を思ってその緑を見上げているのか。

「ねえ、ベッティ。何気(なにげ)にここ、気に入ってたでしょ? 近いうちに連れ出すことになるけどごめんね?」
「公爵家はぬるま湯につかっているみたいで、居心地は最悪ですよぉう。むしろ早くお迎えに来てほしかったくらいですぅ」

 ベッティは気づいてないのだろうか。公爵家でのベッティの振る舞いは、普段カイに見せる気負いないものと変わりはないようだった。素を見せるなどベッティらしくないと思っていたが、無意識の事だったらしい。

 この先、ベッティはジークヴァルトに任せることになるかもしれない。リーゼロッテのそばなら、ベッティもきっと(うれ)いなく生きていけるだろう。いずれいなくなる自分のことなどすべて忘れて。

「ねえ、ベッティ。もう一度だけ聞くけど、アンネマリー嬢の(はだか)ってどんなだった?」
「はいぃ、アンネマリー様のお体はぁ、それは白磁(はくじ)のようにすべらかでぇ、お胸はたわわに(みの)った果実(かじつ)のように……って、なんてこと聞いてくるんですかぁっ!?」
「はは、さすがに(だま)されなかったか」
「当たり前ですぅ! このベッティ、カイ坊ちゃまをそんなふうにお育てした覚えはありませんよぅ!」
「うん、オレもベッティに育ててもらった覚えはないかな」

 ぷりぷり怒るベッティに目を細めながらその頭にポンと手を置くと、カイはベッティの頭をいい子いい子と何度もなでた。

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