氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 マテアスが立ち並ぶ本棚(ほんだな)の一つに手を差し入れて、ごそごそとしているうちに奥の方でカチリと音が鳴った。手を引き抜いてその本棚をぐいと押すと、棚が横にスライドしていく。

 その奥の壁に現れた古びた鉄の扉に、束から選んだ鍵をひとつ差し込むと、マテアスはその重い扉をきしませながらゆっくりと開いていった。

 (とどこお)っていた空気が流れ出したのか、ほのかなかびの(にお)いが鼻をつく。道を(ゆず)るように一歩後退(こうたい)すると、マテアスは振り返ってカイを見やった。

「持ち出すのは一回に一冊までになさってください。分かっておられると思いますが、書庫の中で火を使うのは厳禁でございます。くれぐれも、書物の破損・欠損などおこしませんよう」

 公爵家の書庫に隠されたこの奥扉は、滅多(めった)に開かれることはない。この中には、長い歴史の中秘匿(ひとく)され続けてきた重要(じゅうよう)機密(きみつ)も多く存在する。それは公爵家に関わることであったり、この国の成り立ちに関連する事柄(ことがら)もあった。

「うん、わかってるよ。オレが確認したいのは貴族(きぞく)名鑑(めいかん)だけだし、それ以外は触らないから」

「あと、もうひとつ。そこのカークの見たものはすべて旦那様に届いております。ゆめゆめいたずら心はおこされませんよう、ご忠告申し上げておきます」

 マテアスは書庫の本棚を(もの)(めずら)()に見やっているリーゼロッテに目を向けてから、もう一度カイの顔を見た。

「ははは、さすがのオレもそんな命知らずなことはしないよ。侍女の()をひとり置いてってくれれば、リーゼロッテ嬢とふたりきりってわけでもないし、何も問題ないでしょ?」

 そう言いながらカイはカークに向かってひらひらと手を振った。その向こうでジークヴァルトが眉間にしわを寄せながらこの様子を見ているに違いない。

 だがマテアスは渋い顔のままだ。今日のジークヴァルトはほとんど使い物にならないだろう。リーゼロッテの事が(から)むと、主は途端(とたん)にぽんこつと化すのだ。

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