氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「書庫の入口には護衛も立たせてありますので……」
「ああ、カーク子爵家のヨハン殿だね。キュプカー隊長がまた王城に来て、近衛(このえ)騎士(きし)たちと手合わせしてほしいって言ってたよ。ヨハン殿みたいなパワープレイヤーはなかなかいないからね。いい訓練になるんだってさ」
「さようでございますか」
「あと、従者君、君もね。従者君みたいな俊敏(しゅんびん)な人間って、大剣(たいけん)をふるう騎士はみな苦手なんだよね。オレも一度手合(てあ)わせしてほしいかな」
「ご遠慮申し上げたいところですが、旦那様のご気分次第でいかようにも」

「はは、ジークヴァルト様、その点だけはやけに渋るんだよなぁ。まあ、いいや。それはまた今度の楽しみにしておくよ」
「では、わたしはこれで失礼いたします。何かございましたら、侍女かヨハン様に申し伝えてください」
「忙しいところ(わずら)わせて悪かったね」
「いえ、これも仕事ですので。では、リーゼロッテ様、また夕刻(ゆうこく)にお迎えに上がります」

 最後にリーゼロッテに一礼してから、マテアスは足早(あしばや)に出ていった。

「さてと……さくっと調べて帰りますか」

 カイは(おく)(とびら)をくぐり、薄暗く狭い隠し部屋へと足を()み入れた。(ところ)(せま)しと並べられている本の中から目当ての場所を探し当てる。指先で背表紙(せびょうし)辿(たど)っていき、そこから五冊引き抜くと、リーゼロッテの待つ表の書庫へと戻っていった。

 マテアスには一度に一冊と言われたが、リーゼロッテとカーク、壁際(かべぎわ)に控えているベッティ、それに入口にヨハンもいるので、自分も(ふく)めてひとり一冊の計算だ。何も問題はないだろう。

「じゃあリーゼロッテ嬢、こっちで手伝ってもらえるかな?」

 そなえられたテーブルに本をどさりと置くと、うろうろと見て回っていたリーゼロッテに手招きをした。

「わたくしは何をすればよろしいのですか?」
「これとこれを()(くら)べて、何か気づいたことがあったら教えてほしんだ」
「こちらは、貴族(きぞく)名鑑(めいかん)?……ですか?」
「うん、そう。ああ、よかった、公爵家の名鑑はやっぱり機密(きみつ)(ばん)だ」

 手に取った一冊のページを開いたカイは、安堵(あんど)したように言った。そのまま向かい合わせに座るリーゼロッテに見やすいように、開いた名鑑の向きをくるりと変えた。もう一冊を手に取ると、同じようにページを開いてリーゼロッテの前に二冊並べていく。

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