氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「機密版?」
「貴族名鑑は毎年すべての家に配られるけど、ただ名前が()っているだけなんだ。だけど、存命の貴族の()姿(すがた)が描かれた名鑑が、ごく一部にのみ配られる。それがこの機密(きみつ)名鑑(めいかん)ってわけ」

 機密版の貴族名鑑を一般に配布しないのは、防犯上の理由だ。いたずらにそれを広めることで、誘拐や強盗などの被害を出さないためだった。

 王城の書庫にもそれは保管されているが、閲覧(えつらん)するには明確な理由と数々の手続きが必要になる。急を要するカイは、フーゲンベルク家なら置いてあるだろうと踏んで、今日アポなしでやってきたのだ。

 カイは明日、神殿(しんでん)が管理する書庫へ入る予定になっている。過去に降りた託宣にまつわる記録が膨大(ぼうだい)に眠る書庫の閲覧許可が、ようやく下りたのだ。

「これとこれは、年が一年違う名鑑なんだ。右と左を見比べて、何か気づいたことがあったら教えてくれる?」
「見比べる?」
「うん、当主が(だい)()わりしたり、婚姻(こんいん)出生(しゅっせい)なんかで違ってくると思うから。一つの家につきだいたい見開き一ページ、当主を中心に家系(かけい)()が書かれているんだ。この(しるし)が当主、これはその伴侶、この印がついてるのは前当主で、これはその年に誕生した子供。全員の名前の下にある数字が生まれた年だね。それに亡くなった場合はかっこがつくんだ」

 カイは開いたページを指さしながら、簡単に年間の見方(みかた)を教えていく。

「亡くなった方の下にあるふたつの数字は何ですか?」
「それは亡くなった年と亡くなってからの年数だね。後ろの数字が十になると翌年から記載(きさい)が無くなるんだ」

 カイが開いたページはフーゲンベルク家のページだった。当主はジークフリートになっており、ジークヴァルトは三歳の記載がある。

(ヴァルト様が(おさな)い……)

 今と変わらない無表情のジークヴァルトの幼い絵姿がそこに描かれている。父親のジークフリートはだいたい記憶に残っているままの姿だ。

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