氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「それはリーゼロッテ嬢が生まれた年の名鑑だよ。こっちはその一年前」
「まあ、ではこちらはアンネマリーが生まれた年ですわね」

 一年前と言われた名鑑を見ると、少し不思議そうな表情をした二歳のジークヴァルトが描かれていた。

(あ、こっちの方がなんか可愛い)
 思わず顔がほころんだ。

「ん? 何か楽しいことが書いてあった?」
「いえ、ジークヴァルト様が幼くて、なんだか可愛らしいと思いまして」
「はは、それ、本人の前で言わない方がいいよ」
「え? どうしてですか?」
「可愛いって言われてよろこぶ男はあまりいないからね」

 子供の頃なのに? そう思ってリーゼロッテはこてんと首を傾けた。カイに聞き返そうとするが、カイはすでに名鑑に目を通すのに没頭(ぼっとう)している。自分の目の前に残りの三冊を開いて並べ、同じ家のページを開いては()(ばや)い動きで目を通していく。

 その姿を見て、リーゼロッテは自分もページに集中することにした。

(あ……ディートリンデ様ってこんなお顔なんだわ。アデライーデ様によく似てる)

 ジークヴァルトの母親にはいまだに会ったことがない。エマニュエルやジークハルトの話だと、怒らせるとものすごく怖いらしい。

(第一印象は初めの数秒で決まるらしいし、お会いしたら挨拶(あいさつ)はしっかりしなくちゃ……)

 (よめ)(しゅうとめ)の関係は良好にしておきたい。いつ何時(なんどき)会うことになっても、すぐに挨拶ができるようにと今から心づもりをしておかなくては。

(ふふ、アデライーデ様は七歳ね。とっても可愛らしいわ)

 勝気(かちき)そうな少女が青い瞳をまっすぐこちらに向けている。この頃の絵姿に、顔の傷はないようだ。あの傷に関して、詳しいことは聞けないままでいる。詮索(せんさく)する気はもともとないが、自分が顔に傷を負ったりしたらアデライーデのようにふるまえるだろうか。

(いいえ、アデライーデ様は今でもおつらいはずだわ……)

 そう思っても自分に何ができるはずもない。いたたまれない気持ちのまま、リーゼロッテはページをまくった。

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