氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 それにしてもカイは、ものすごいスピードで三冊の年鑑に目を通している。同じ家のページを開いては、三冊同時に視線を向けて、ぱっと見同じに見える家系図から、的確に変化があった個所をチェックしているようだ。

 普段のカイからは想像できないような姿に鬼気(きき)(せま)るものを感じて、リーゼロッテはしばらくその動きを目で追っていた。

 不意に「どうかした?」とカイが顔を上げる。リーゼロッテはあわててかぶりを振った。

「いえ、何でもありませんわ」
 これ以上邪魔しないようにと、リーゼロッテは今度こそ目の前の貴族年鑑に集中することにした。

 再び生家のページに目を落とす。父親も母親も、その絵姿は自分の記憶に残るままだ。

(マルグリット母様は記憶の通りね。イグナーツ父様は銀髪(ぎんぱつ)なのね……)

 思い出の中の父はいつもモノクロだった。つり気味の瞳は金色のようだ。なんとなく切ない気分になって、リーゼロッテは視線を下にずらした。
 そこに自分の名前が載っている。絵姿は髪の毛も生えそろっていないような赤ん坊なので、それが自分と言う実感はない。リーゼロッテ・ラウエンシュタイン。三歳まではそれが自分の名前だった。

(やっぱりしっくりこないっていうか、変な感じね)
 そう思いながらページをめくる。今度はアンネマリーの家を探してみた。

(あった、クラッセン侯爵家。当たり前だけどアンネマリーも赤ん坊ね)

 若いトビアスとジルケの絵姿の下に、アンネマリーが描かれている。何となくアンネマリーが生まれた年と翌年の絵姿を見比べてみた。

(ふふ、アンネマリーは赤ん坊の時から髪がふさふさだわ。ふわふわの髪は赤ちゃんの頃から変わらないのね)

 アンネマリーの亜麻色(あまいろ)の髪はふわっふわで、触れるととてもやわらかな手触りだ。ハグし合ってその髪に顔をうずめると、とても気持ちがいいのだ。

(でも特に変わったところはなさそうね)

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