氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そんな内情であるのだが、詳しいことを聞ける雰囲気でもなく、また聞こうとも思わなかったリーゼロッテは再び名鑑に目を落とした。カイのように素早くはできないが、ゆっくりと指で辿(たど)りながらひとつひとつ違いを確かめていく。

 ふとアンネマリーの生まれ年の年鑑のとあるページで、リーゼロッテはふと違和感を覚えた。

(あ、ここ、黒く塗りつぶされてる)
 翌年の同じページにはその黒塗りは存在せず、ただの空白となっている。

「書き間違いを塗りつぶしただけなのかしら……」
 独り言のようにつぶやくと、それに反応したカイがその年鑑をチラ見した。

「……それは間違いなんかじゃないよ。そこには確かに貴族のひとりが記載(きさい)されていた」
「ですが、翌年には何も……」

 亡くなったのならかっこがつくはずだし、除籍なら二重線が引かれるはずだ。疑問に思ってリーゼロッテは分からないというふうに首をかしげた。

「『いなかったこと』にされたんだ。その人物は、()()()()()()だから」
「星を……()とす者?」

 カイは名鑑を調べる手を完全に止めて、リーゼロッテを真っ直ぐに見た。そこにいつもの笑顔はない。

「龍の託宣を(はば)もうとする人間、その末路(まつろ)が星を堕とす者だよ」
「託宣を阻もうとする人間……?」

「その人物はセレスティーヌ王妃の命を(ねら)い、ハインリヒ様をも亡き者にしようとした。託宣を受けたハインリヒ様を害するということは、龍への冒涜(ぼうとく)を示す。龍の託宣が果たされることを阻止(そし)しようとする者は、何人(なんぴと)であっても龍による鉄槌(てっつい)を受け、禁忌(きんき)の罪を(おか)した者としてすべて星に()とされる」

 そう言うカイは声は、静かだが感情のこもらないものだった。

「……星に堕とされるとは、いったいどういうことなのですか?」
「龍により死が与えられ、禁忌(きんき)の異形の者となり果てるんだ。星を堕とす者は、今までリーゼロッテ嬢が()てきた異形たちとは次元(じげん)が違う。……出くわすようなことはないと思うけど、それだけは知っておいた方がいい」

 星を堕とす者とは、怨霊(おんりょう)のようなものだろうか。カイの説明にリーゼロッテは神妙(しんみょう)な顔で(うなず)いた。

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