氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そんな様子のリーゼロッテに目を細めてから、カイは再び目の前の名鑑に目を落とした。それにしてもリーゼロッテは不思議な令嬢だ。いないよりはましかもしれない程度で連れてきたが、カイの指示通りのことをいともたやすくやってのけている。

 カイが普段(ふだん)相手にするご夫人たちなら、退屈(たいくつ)で五分ももたない作業だろう。それどころか年鑑を並べても違いがあるなど認識(にんしき)もできないに違いない。何しろ彼女たちが興味があるのは、下世話(げせわ)な噂話と自分を美しく()(かざ)ることだけだ。

 読み書きの教育を受けていても、淑女たちの大半は自分で物事を考えることをしない。そうする必要もないし、貴族女性はそうであることを求められる風潮(ふうちょう)がある。

 その点リーゼロッテは深窓(しんそう)の令嬢として育ち、確かに世間知らずではあるのに、どうしてだか頭の回転は悪くない。

(リーゼロッテ嬢の守護者は聖女と聞くし、その影響もあるのかもしれないな)

 聖女は叡智(えいち)と力を与える象徴(しょうちょう)だ。そんなことを思いながら、カイはとあるページの一か所で手を止めた。

(あった……! これだ!)
 カイはそこで求めていた答えかもしれないものをみつけた。

(スタン伯爵家……長女、アニータ・スタン……二十三歳で行方不明……ちょうどセレスティーヌ王妃が亡くなった年だな)

 カイが調べている貴族名鑑は、ルチアが生まれた年とその前後の物で、ちょうどリーゼロッテが見ているものの続きの名鑑だ。

「ごめん、リーゼロッテ嬢、そっちの名鑑貸してくれる?」
 そう言ってカイはすぐ二冊を自分の方に引き寄せた。同じページを開いて確かめる。

(アニータ・スタン……この二冊は普通に記載(きさい)があるか)

 リーゼロッテの生まれ年の翌年に、アニータは行方不明で死亡(あつか)いとなっている。その年はルチアが生まれる前の年だ。その記述(きじゅつ)にカイの頭が高速(こうそく)で回転し始める。

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