氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「母さん、ただいま! 今日は人がすごくって、帰るのが遅くなっちゃった」
「お帰りなさい、ルチア。女の子がそんな乱暴に扉を開けるものではないわ」
「はいはい、わかってますわ、お母様」
紙袋をテーブルの上に置くと、わざとらしくスカートをつまんで、ルチアと呼ばれた少女は淑女の礼をしてみせた。古びた寝台に横たわったまま、ルチアの母は「はいは一回!」と厳しく言ったが、その顔はやわらかく笑っている。
ルチアの長すぎる前髪の隙間から、金色の瞳がちらりと覗く。どこにでもいるような茶色の髪は肩口できれいに切りそろえられているが、不自然に曲がってみえた。
「ルチア、髪が曲がっているわ」
「いやだ。人ごみをかき分けてきたからだわ」
ルチアは自分の髪に手を伸ばすと、無造作な手つきでそのままスポンと抜き取った。まるで帽子のように外された髪の下から、三つ編みの長い髪がこぼれ落ちた。
赤茶けた髪の生え際だけが、深紅の髪色に染まっている。いわゆるプリン状態だ。
「……髪が伸びてきたわね。今日にでも染め直しなさい」
母親にそう言われ、ルチアは三つ編みにした自分の長い髪をつまみあげた。
「ねえ……これって、どうしても切っちゃダメなの?」
幾度もした質問を再び母親に投げかける。
ルチアの地毛は、鮮やかな赤毛だ。根元に見える深紅の髪こそ本来の髪色だった。子供の頃から母親は、そのルチアの赤毛をなぜか茶色に染めさせていた。
理由を聞いても明確な返答は得られない。とにかく「人に見られてはいけない」の一点張りだ。毛を染めたうえで、さらにかつらまでかぶらされている。
先々代から続く赤毛の王の影響で、赤毛の子はけっこうもてる。末の王女もきれいな赤毛をしているともっぱらのうわさで、赤毛人気の風潮は平民の間で広がっていた。
「お帰りなさい、ルチア。女の子がそんな乱暴に扉を開けるものではないわ」
「はいはい、わかってますわ、お母様」
紙袋をテーブルの上に置くと、わざとらしくスカートをつまんで、ルチアと呼ばれた少女は淑女の礼をしてみせた。古びた寝台に横たわったまま、ルチアの母は「はいは一回!」と厳しく言ったが、その顔はやわらかく笑っている。
ルチアの長すぎる前髪の隙間から、金色の瞳がちらりと覗く。どこにでもいるような茶色の髪は肩口できれいに切りそろえられているが、不自然に曲がってみえた。
「ルチア、髪が曲がっているわ」
「いやだ。人ごみをかき分けてきたからだわ」
ルチアは自分の髪に手を伸ばすと、無造作な手つきでそのままスポンと抜き取った。まるで帽子のように外された髪の下から、三つ編みの長い髪がこぼれ落ちた。
赤茶けた髪の生え際だけが、深紅の髪色に染まっている。いわゆるプリン状態だ。
「……髪が伸びてきたわね。今日にでも染め直しなさい」
母親にそう言われ、ルチアは三つ編みにした自分の長い髪をつまみあげた。
「ねえ……これって、どうしても切っちゃダメなの?」
幾度もした質問を再び母親に投げかける。
ルチアの地毛は、鮮やかな赤毛だ。根元に見える深紅の髪こそ本来の髪色だった。子供の頃から母親は、そのルチアの赤毛をなぜか茶色に染めさせていた。
理由を聞いても明確な返答は得られない。とにかく「人に見られてはいけない」の一点張りだ。毛を染めたうえで、さらにかつらまでかぶらされている。
先々代から続く赤毛の王の影響で、赤毛の子はけっこうもてる。末の王女もきれいな赤毛をしているともっぱらのうわさで、赤毛人気の風潮は平民の間で広がっていた。