氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「そして今回、新たな託宣がふたつ見つかりました。王家が、そしておそらく、神殿も把握(はあく)していない託宣だと思われます」
「その内容とは?」
「ひとつは『リシルの名を受けしこの者、異形の者に命奪われし定め』と」
「異形に命奪われし定め、か」

 カイは無言で(こうべ)()れた。龍が落とす託宣にしては物騒(ぶっそう)すぎる。カイが知る中でも、こんな内容の託宣は今まで他に見たことがない。

「して、もうひとつとは?」
「はい、もうひとつの託宣とは……」

 口を開きかけて、カイはぎゅっと眉根をよせた。王の前でする行為ではないが、カイにはそうする以外できなかった。

「目隠しか。言えぬのならば言わずともよい」

「……もう一点だけご報告が。書庫での記録と、王家が把握している託宣の数が、一致しない年が確認できました。八百十三年にひとつと、八百十五年にふたつ、我々が知らない託宣が降りた形跡があります」

 今回新たに見つかったふたつの託宣と、ハインリヒと対をなす託宣、それらがその各年に降りたというのなら数が合う。

「ですが、ハインリヒ様のお相手を含めて、どの託宣がいずれの年に降りたのかまでは、調べることは叶いませんでした」
「そうか」

 ディートリヒ王は静かに立ち上がる。もう聞くことはないとの意思表示に、カイは開きかけていたその口を閉じた。ルチアの存在を報告しようと思っていたが、まだ確定ではないため、もう少し情報を集めてからでもいいだろう。

「王妃には()から話しておく。王太子にはそなたから報告するがよい」
「ディートリヒ王……! 最後にひとつだけお聞かせください」

 そのまま去ろうとする王の背に、思わずカイは言葉を発した。

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