氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 王城の廊下を歩きながら、カイは今後の動きをどうすべきか思案していた。

(とりあえずはハインリヒ様に報告に行くか)

 ハインリヒの託宣の相手は確かに存在すること。その相手は、八百十三年か八百十五年のいずれかかに生まれた者である可能性が高いこと。その候補として、ルチアという少女が上がっていること。

 だが、ルチアに関する情報は、まだ不確定な要素が多すぎる。ハインリヒに彼女の存在を伝えるのは、少なくとも母であるアニサが、本当に行方不明になったアニータ・スタン伯爵令嬢であるのかを確かめてからだ。

(イグナーツ様にアニサとの関係を問い詰めたいところだけど)

 彼はいまだこんがり亭に戻っていないようだ。万が一を考えて、ルチアには密偵(みってい)を放って逃げられないよう見張っている。まずはアニータ・スタン伯爵令嬢の事から片付けていくのが得策だ。

(ハインリヒ様に変に期待を持たせるのもまずいしな……)

 ルチアが全くの無関係となれば、また手がかり(ゼロ)の振り出しに戻ってしまう。だが、探す相手の生まれ年が二年に絞られただけでも、収穫ありだ。

(八百十五年はルチアの生まれ年……そして、八百十三年はアンネマリー嬢の生まれた年か)

 託宣の書庫で見た記録によると、ルチアが生まれた年にふたつ、アンネマリーが生まれた年にひとつ、託宣が降りたことになる。そのうちのいずれかが、ハインリヒの相手ということだ。

 本音を言えば、アンネマリーがハインリヒの託宣の相手ならば、こんなに楽なことはない。ハインリヒのアンネマリーへ向けられる感情は、今までの彼ならば考えられないほどの執着ぶりだ。
 だが、そんな希望的観念(かんねん)はなんの役にも立ちはしない。可哀そうだとは今でも思うが、ハインリヒには徹底的に現実に向き合ってもらうしかないだろう。

 仮にルチアがハインリヒの託宣の相手だとして、市井(しせい)で生まれ育った彼女に、国母(こくぼ)としての(せき)(にな)うことはできるのだろうか?
 あのやせぎすのルチアが、ハインリヒと仲睦(なかむつ)まじく並び立つ姿を思い浮かべて、カイはため息をつきながら頭を振った。

「うん……なんだか、想像力を試されてる感じだな」
「何を試されておられるのですか?」

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