氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 不意に正面から声をかけられて、カイはいつの間にか向かいにいた女官に目を止めた。

「カイ様が上の空とは、珍しいこともあるものですね」

 刻まれたしわを深めてやさし気に目を細めたのは、イジドーラ付きの古参の女官だ。幼少の(おり)から面識がある昔馴染みで、カイにとっては、王城内で気を許すことのできる数少ない存在でもあった。

「ルイーズ殿、ちょうど良かった。あなたに聞きたいことがあったんです」
「わたしにでございますか……? それはまた珍しい」
「アニータ・スタン伯爵令嬢について、知っていることがあったら教えてもらえませんか? どんなに些細な情報でもかまいません」
「アニータ・スタン……?」

 一瞬、記憶をたどるようなしぐさをしてから、次いでルイーズの表情が硬くなる。

「ここでは……まずはこちらへ」

 ルイーズの目配せを受けて、カイは頷いて彼女の後ろをついて行った。

 通されたのは女官たちが使う控えの部屋だ。ルイーズの指示で若い女官が席を外すと、ルイーズは神妙な顔でカイを仰ぎ見た。

「カイ様は何をお知りになりたいのですか? アニータ様はずいぶんと前に亡くなられたと聞き及んでおります」
「今から十四年前に、アニータ嬢は行方不明で死亡扱いになっている。それは貴族年鑑で確かめました。オレが知りたいのは、行方がわからなくなる直前に、彼女がどこでどう過ごしていたかです。ルイーズ殿の記憶に残ることは何かありませんか? どんな小さなことでもいいんです」

 カイの必死さに、ルイーズは戸惑いの表情を見せる。どこかためらう様子のルイーズは、何かを言うかどうかを迷っているように感じられた。

「ハインリヒ様の託宣の相手の手掛かりになるかもしれないんです。どうか口に出せることは、すべてオレに話してもらえませんか?」

 はっとして、ルイーズは心を決めたようだった。頷いてから、今度はためらうことなくその口を開いた。

「わたしはアニータ様と直接の面識はございませんでしたが、アニータ様が行方不明となられる前に長く過ごされていた場所なら存じ上げております」

 続きを催促するような視線にルイーズは背筋を伸ばし、まっすぐとその顔を向けた。

「それは、ここ、王城にございます」
「王城に……?」

 その言葉にカイが訝し気な顔をした。貴族令嬢と言えど、王城に長く滞在するにはそれなりの理由がいる。王城はただ遊びにきて、長く逗留(とうりゅう)できるような場所ではないのだ。

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