氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「アニータ様は当時、イルムヒルデ様のお話し相手として王城にとどまっておいででした。アニータ様はイルムヒルデ様のお気に入りでいらしたので……」
イルムヒルデとはディートリヒ王の母親のことだ。王妃の座をセレスティーヌに譲って以来、表舞台に現れることなく、後宮で余生を過ごしていたとカイは聞いている。
「当時は前王フリードリヒ様が病で臥せっておられましたので、心労の重なるイルムヒルデ様をお支えするべく、アニータ様は長く後宮で過ごされていました。ですが、それ以上のことは……。アニータ様の訃報は、わたしにとっても突然のことでしたから」
ルイーズはそこまで言うと、すまなさそうな顔をした。本当にそれ以上のことは知らないのだろう。
「その頃、アニータ嬢と親しくしていた人物に心当たりはないですか? できれば、行方不明になる直前の様子を知り得るような」
生憎、イルムヒルデはもう何年も前にこの世を去っている。後宮は王族の他に、限られた人間しか入り込めない場所だ。仕える使用人も、後宮で起きた出来事を決して外に漏らすことのない、口の堅い厳選された者ばかりである。そのため、当時の様子を探るのは難しいかもしれない。
(この話を先に聞いていれば、先ほどディートリヒ王に尋ねることもできたのに)
王への謁見は、そう気軽にできるものではない。イジドーラ経由で聞くこともできはするが、できればアニータ・スタンの名をイジドーラの耳には入れたくなかった。
「そうですね……確か、イルムヒルデ様のお話し相手を務めていたご令嬢が、もうひとりいらっしゃったはず……」
記憶の糸を辿るように視線をさ迷わせた後、ルイーズははっとしてカイの顔を見た。
「彼女なら、当時のアニータ様の様子をご存じかもしれません」
「それは一体誰です?」
焦れたようなカイの問いかけに一瞬だけためらった後、ルイーズはその人物の名を告げた。
「その方とは、カミラ・ティール公爵令嬢。現在のグレーデン侯爵夫人でございます」
「グレーデン侯爵夫人……」
そう呟いたカイの顔が微かに歪められた。その人物との接触を図るのは少しばかり難儀そうだ。
グレーデン家とデルプフェルト家は昔から犬猿の仲だ。カイの立場では、真正面から侯爵夫人に面会を申し込んでも、すげなく扱われるのが落ちだろう。だが、どうにか算段を整えなければ、この先に進めそうにない。
イルムヒルデとはディートリヒ王の母親のことだ。王妃の座をセレスティーヌに譲って以来、表舞台に現れることなく、後宮で余生を過ごしていたとカイは聞いている。
「当時は前王フリードリヒ様が病で臥せっておられましたので、心労の重なるイルムヒルデ様をお支えするべく、アニータ様は長く後宮で過ごされていました。ですが、それ以上のことは……。アニータ様の訃報は、わたしにとっても突然のことでしたから」
ルイーズはそこまで言うと、すまなさそうな顔をした。本当にそれ以上のことは知らないのだろう。
「その頃、アニータ嬢と親しくしていた人物に心当たりはないですか? できれば、行方不明になる直前の様子を知り得るような」
生憎、イルムヒルデはもう何年も前にこの世を去っている。後宮は王族の他に、限られた人間しか入り込めない場所だ。仕える使用人も、後宮で起きた出来事を決して外に漏らすことのない、口の堅い厳選された者ばかりである。そのため、当時の様子を探るのは難しいかもしれない。
(この話を先に聞いていれば、先ほどディートリヒ王に尋ねることもできたのに)
王への謁見は、そう気軽にできるものではない。イジドーラ経由で聞くこともできはするが、できればアニータ・スタンの名をイジドーラの耳には入れたくなかった。
「そうですね……確か、イルムヒルデ様のお話し相手を務めていたご令嬢が、もうひとりいらっしゃったはず……」
記憶の糸を辿るように視線をさ迷わせた後、ルイーズははっとしてカイの顔を見た。
「彼女なら、当時のアニータ様の様子をご存じかもしれません」
「それは一体誰です?」
焦れたようなカイの問いかけに一瞬だけためらった後、ルイーズはその人物の名を告げた。
「その方とは、カミラ・ティール公爵令嬢。現在のグレーデン侯爵夫人でございます」
「グレーデン侯爵夫人……」
そう呟いたカイの顔が微かに歪められた。その人物との接触を図るのは少しばかり難儀そうだ。
グレーデン家とデルプフェルト家は昔から犬猿の仲だ。カイの立場では、真正面から侯爵夫人に面会を申し込んでも、すげなく扱われるのが落ちだろう。だが、どうにか算段を整えなければ、この先に進めそうにない。