氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「嫌なら行くことはない」
「わたくし嫌だとは言っておりませんわ」
「だが、少しでもそう思うなら、行く必要はない」

 いつになく歯切れ悪く食い下がるジークヴァルトに、リーゼロッテは不思議そうにこてんと小首を傾けた。

「もしかして、ジークヴァルト様は……わたくしに行ってほしくないのですか?」

 自分で行く許可を出したくせにと思いつつ、上目遣いでそう聞いてみる。するとジークヴァルトはぐっと口をつぐんで、ついとリーゼロッテから顔をそらした。

「まあ! どうぞご安心くださいませ。わたくしジークヴァルト様のためにも、粗相(そそう)せぬよう頑張ってまいりますわ!」

 心配ご無用とばかりに胸の前でこぶしを作る。それを見たジークヴァルトは、その眉間にさらに深いしわを寄せた。そんなジークヴァルトを、マテアスがあきれたように見やる。

「行く先はあのグレーデン家なんですよ。旦那様の守り石もありますし、エラ様がご一緒なら、異形たちも寄っては来ることはないでしょう? まったく、子供みたいに駄々(だだ)こねていないで、(こころよ)くリーゼロッテ様を送り出して差し上げてください」
「そうですわ、旦那様。リーゼロッテ様も社交会にデビューされた身。今のうちにいろいろと経験をお積みにならないと、ゆくゆく苦労なさるのはリーゼロッテ様ですわ」

 畳みかけるように言われたジークヴァルトは、仏頂面(ぶっちょうづら)のまま口をつぐんだ。

(わたしってそんなに信用ないのかしら)

 普段の行いをきれいさっぱり棚に上げつつ、過保護にもほどがあると、リーゼロッテは小さなその唇をむうっと尖らせた。

 そんなこんなでリーゼロッテは、デビュー後初めてのお茶会に、単身、参加することになったのだった。



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