氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 長い廊下を半分ほど行き過ぎたとき、リーゼロッテはもう一度、ガラス戸の外に目を向けた。この純白のさびしい静かな庭は、春の雪解けを迎えたときに、色とりどりの花々が美しく咲き乱れてくれるのだろうか。

 ウルリーケのためにも、そうであってほしい。
 陰ってきた雪景色と、ガラス戸に映る自分の姿を、リーゼロッテはただ静かに見つめた。

『リーゼロッテ! 気をつけて!』

 突如、切羽(せっぱ)()まったジークハルトの声が響く。不自然に切られたマイクのように、その語尾が耳障(みみざわ)りにぶつりと途切れた。

 はっと、顔を上げる。
 ガラス戸の外に広がる雪景色。そこに映る自分の姿。そして、その自分の背後に、長い髪をした美しい女がひとり――

 ガラスに映った女と目が合った。肩の出た深紅のドレス。喉元(のどもと)には紅玉(こうぎょく)のブローチ。妖しくきらめく目を細め、紅の引かれた唇が形よくにいっと()を描く。

 瞬時に(あわ)立った全身に、反射的に後ろを振り向いた。
 誰もいない、寒々とした廊下の壁だけが目に入る。

 その瞬間、背にしたガラス戸一面が、大音響を立てて一斉に砕け散った。同時に、身に着けていた守り石の数々が、水風船が破裂するかのごとくに、ひとつ残らず弾け飛ぶ。
 リーゼロッテは悲鳴を上げて、崩れるようにその場にうずくまった。

 さえぎるものが無くなった長い廊下を、びょおと冷たい雪風が吹き荒れる。静寂は一瞬で消え去った。



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