氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 暖かい一室に通されて、リーゼロッテはようやく人心地ついていた。あれだけの中にいたのに、不思議とリーゼロッテはまったく雪にぬれていない。カイは思いっきり雪まみれになっていたにもかかわらずだ。
 グレーデン家もこの事態を前に、さすがに騒然となっているようだ。時折、廊下を人の気配が、行き過ぎては遠ざかっていく。

「リーゼロッテ嬢、怖かったとは思うけど、あの時何があったのかオレに話してくれる?」

 カイの言葉に、後ろで控えていたエラが顔をしかめた。

「お言葉ですが、デルプフェルト様。お嬢様はあんなにも恐ろしい目に合われたのです! もう少し気遣いというものを……」

 そこまで言って、エラはすとんとカイに倒れ込んだ。その体をひょいと横抱きにすると、カイは脱力したエラの体を一人がけのソファへと座らせる。

「カイ様……!」
 また眠り薬を使ったのだろう。わかっていても非難めいた声が出てしまう。

「ごめん。でも、この事態は見過ごせるようなものじゃないんだ。さっきリーゼロッテ嬢が遭遇したのは、恐らく異形の者だから」

 その言葉にリーゼロッテはぎゅっと唇とかみしめた。あの女の瞳を思い出して、ぶるりと寒気が背筋を走る。

 カイはソファに座るリーゼロッテの前で、目線を合わせるように片膝をついた。

「リーゼロッテ嬢は何を見たの? 見たままでいいから話してほしい」

 真剣なまなざしに、リーゼロッテは震えながらもこくりと頷いた。

「わたくし、廊下の中ほどで、庭の雪と、自分が窓に映る姿をながめておりました。……そうしたら、わたくしの後ろに赤いドレスを着た綺麗な女の方が立っているのがガラスに映って……ですが、振り返っても後ろには誰もいなくて、その時、窓が一斉に……」

 そこまで言ってリーゼロッテは小さく身震いした。あの瞬間、身に着けていた守り石がすべて砕け散った。それはリーゼロッテを傷つけることはなかったが、髪に耳に首元に、そしてドレスのいたる所に飾られた青の揺らめきは、一瞬にして灰色の残骸になってしまった。

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