氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「その女の容姿はどんなだったか覚えている?」
「容姿……」

 そう言われてリーゼロッテは、脳裏に残る女を思い浮かべた。

「髪が長くて……赤い口紅と、ここ喉元(のどもと)に真っ赤なブローチが……」

 深紅のドレスと、白い首に飾られた、紅玉のような赤い輝きが目に焼きついた。なのに髪の色も瞳の色もぼんやりとして思い出せない。

「首にブローチ?」

 カイにそう聞き返されて、リーゼロッテ自身、小首をかしげた。女はオフショルダーのドレスを着ていたように思う。胸元も首筋も、肌が出ていたはずだ。素肌にブローチをつけるなどできはしないだろう。

「チョーカーだったのでしょうか……紅玉のように美しく輝いておりましたから」
「……龍の烙印(らくいん)だ」
「え……?」

 カイの押し殺した声に思わず顔を上げると、そこには真剣な目をしたカイがいた。

「その(くれない)のしるしは、龍の烙印――禁忌(きんき)の異形につけられた罪の(あかし)だ」
「罪の証……」

 リーゼロッテがオウム返しにすると、カイはその場で静かに立ち上がる。

「この前、公爵家の書庫で話したよね。龍の託宣を(はば)もうとする者には、龍の鉄槌(てっつい)が降りるって」
「では、あの方は……」
「そう、リーゼロッテ嬢が視たのは恐らく」

 青ざめたリーゼロッテにカイは静かにうなずいた。

「――星を()とす者だ」

 あれほど美しく、鮮明な人の形をとる異形は、今までに視たことがなかった。あるとしたら、王城の(よろい)の大公やジークハルト、それに、泣き虫ジョンとカークくらいだろうか。
 だがどれも心やさしい異形たちだ。悪意ある異形は確かにいるが、あれほど美しく禍々(まがまが)しさを放つ者には今まで遭遇したことがない。

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