氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(星を堕とす者……)

 カイは出くわすことはないと言っていた。だが、実際にはそれが自らリーゼロッテの元にやってきた。悪意に満ちた異形の女は、確かにあの時笑っていた。そう、それはまるで――
 宣戦布告のように。

「星を堕とす者はなぜ……」

 単純に考えて、ジークヴァルトの婚約者である自分を狙ってきたのかもしれない。だが、カイにしても、ジークヴァルトにしても、まったくの予想外だったという反応だ。
 いずれにせよ、カイの慌てぶりから察するに、危険で不穏(ふおん)な存在であることには間違いないのだろう。

「二度とあんな目に合わせはしない。お前は必ずオレが守る」

 ジークヴァルトの言葉にリーゼロッテは素直にうなずけなかった。自分はいつだって足手まといになるばかりだ。女だから、婚約者だから。守られて当然なのだと、とてもそんなふうには考えられない。

 自分には力がある。それが、きちんと使いこなせさえすれば――
(星を堕とす者だって、天に(かえ)すことができるかもしれないのに……!)

 そこまで思ってリーゼロッテははっとした。

「ジークヴァルト様……ジョンは、この後どうなってしまうのですか?」

 もたれかかっていたジークヴァルトの胸から体を起こし、その顔を不安げに見上げた。もし本当に、泣き虫ジョンが星を堕とす者だというのなら、無理やりにでも(はら)われてしまうのかもしれない。

 会いに行くたびに、いつもジョンから感じていた感情を思い出す。悲嘆(ひたん)悔恨(かいこん)、その中に(ひそ)む孤独とやるせなさ。それらひとつひとつは、まさに人としてのそれだった。どうしてそれが禁忌(きんき)を犯した異形だというのか。

「それはオレにもわからない」
 静かに言うとジークヴァルトは、肩に回していた手に少しだけ力を入れて、リーゼロッテの体を再び自身へと引き寄せた。

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