氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ジークヴァルトに頭を預けて、その胸の鼓動を聞く。一定のリズムに包まれて、次第に穏やかな気分になるのがわかる。ここは無条件で許される場所だ。腑に落ちたように、なんの脈絡もなくそんなことを思った。
 と同時に、異形が無理やり祓われるときの感覚が(よみがえ)る。異形は人だ。少なくとも、そうなる前は人だった。苦しみで凝り固まったまま、異形たちはみな動けないでいる。そこを引きちぎるように力づくで天に還すのだ。

「だめ……!」
 リーゼロッテは自身の顔を両手で覆った。

「お願い……ヴァルト様、ジョンを……ジョンを殺さないで……!」

 そう言ってしがみつくようにジークヴァルトの胸に顔をうずめる。自分でも何を言っているのかわからない。ジョンはすでにこの世の者ではないというのに。

「……今日はいろいろあった。疲れているんだ。到着まで少し休め」

 そう言ってジークヴァルトは再びリーゼロッテの髪を梳きだした。ゆっくりと、やさしく。なだめるように。安心させるように。

「……ごめんなさい」
 そう呟きながら、リーゼロッテは泣き疲れた子供のように、いつの間にか眠りについた。

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