氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 無防備に眠るリーゼロッテの顔を、ジークヴァルトは飽くことなくじっと見つめていた。あどけないその寝顔は、まるで疑うことを知らないようで。

 彼女はなぜこんなにも簡単に、こころを他者に明け渡してしまうのだろう。
 異形など、人を害する不要のものだと思っていた。だが、彼女はそれらにすら、真摯(しんし)に寄り添おうとする。誰に言われるでもなく、ただそうすることが当たり前だと言うように。

 その瞳に映る者はこの自分ただひとりでいい。いっそ部屋に閉じ込めて、彼女をすべての危険から遠ざけてしまいたい。
 そんな仄暗(ほのぐら)い感情が湧き上がってくる。

 その時彼女は、まだ自分に笑顔をむけてくれるだろうか――

 揺れる馬車の中でリーゼロッテの髪を梳きながら、ジークヴァルトはそんなことをひとり考えていた。

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