氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 冷たいレモン水で一息ついていると、今度はベッティが後ろからやさしく髪をタオルで乾かしはじめた。ぽんぽんとやさしくたたきながら、水分をとっていく。この世界にドライヤーはないので、基本、暖炉のそばに座って自然乾燥する感じだ。
 大方(おおかた)水気が取れると、ベッティは丹念に髪に香油をなじませていく。

「はうん、やっぱりリーゼロッテ様の髪は最高ですぅ」
 丁寧にブラシで梳きながら、ベッティはいまだ上機嫌だ。

「アンネマリー様の髪もやりがいがありましたけどぉ、リーゼロッテ様の御髪(おぐし)はまた違った楽しみがありますねぇ」
「え? ベッティはここでアンネマリーの侍女をしていたの?」
「はいぃ。短い間でしたがこのベッティ、確かにアンネマリー様のお世話をさせていただいておりましたぁ」

 髪を梳く手は止めず、ベッティは普段以上に饒舌(じょうぜつ)だ。

「アンネマリー様の髪は猫っ毛でぇとても扱いづらいんですけどぉ、そこがまたやりがいがあって燃えるんですよねぇ。湯あみの時も(から)まりやすくてなかなか苦労しましたよぅ。逆にリーゼロッテ様の髪はこしがあって(なめ)らかな反面、結うときにちょっとコツがいりますねぇ」

 湯あみと言われて、リーゼロッテはふと思った。アンネマリーは自分に龍の祝福はないと言っていたが、もしかしたら背中など自分で確認できない場所にあるかもしれない。

「ねえ、ベッティ。ベッティはアンネマリーの湯あみのお世話もしていたのよね? その時に、その、アンネマリーの体のどこかに龍のあざ……いえ、龍の祝福はなかったかしら……?」

 リーゼロッテの言葉に、ベッティはその手を止めた。

「リーゼロッテ様も、カイ坊ちゃまと同じことを聞くんですねぇ」
「カイ坊ちゃま?」

 リーゼロッテが不思議そうに振り返ると、ベッティは少し困ったような顔をしていた。かと思うといきなりニヤリとした悪い顔になる。

「リーゼロッテ様には坊ちゃまも託宣の捜査のお話しているようですしぃ、もうベッティもぶっちゃけてもいいってことですよねぇ。ぶっちゃけて申し上げますとぉ、ベッティはカイ坊ちゃまとぶっちゃけ腹違いの兄妹なんですよぅ」

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