氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「わかる……わかるわ、ベッティ!」
 おとなしく座っていたリーゼロッテがいきなり振り返り、ベッティの手を両手で握りしめた。

「そうよ、人のために生きる! なんて素敵なことなのかしら……! わたくしもしてもらうばかりじゃだめなのだわ! そうよ、そうなのよ! ねえベッティ!」

 予想外の反応にベッティは返答に詰まった。かしずかれることに慣れているお前が何を言うのだとも思ったが、勢いに押されてそんな言葉も出てこない。

「わたくしもどなたかのために尽くしたいわ! アデライーデ様の侍女ならやらせていただけるかしら!? こう見えてわたくしこまごまとしたことは得意なの! ねえ、ベッティもいい考えだと思わない?」
「ええぇ、それは公爵様がお許しにならないんじゃあ」
「いいえ! わたくし、してもらうばかりでずっとずっと心苦しかったの。ベッティに言われて、今、目が覚めたわ。ないものねだりをするばかりではなく、もっと自分で努力をしなくっちゃ! ね、そうでしょ、ベッティ!」

 熱く語られたベッティは「えええぇ?」とその身を引いた。カイがリーゼロッテは不思議な令嬢だと言っていたが、不思議というより、これは頭がおかしいと言うべきなのではなかろうか?

「ベッティはきっと今まで、人知れず努力をたくさんしてきたのよね。それなのにそれをひけらかすでもなく、当たり前のようにこなしているわ。わたくし、人としてベッティを尊敬します」

 真摯(しんし)に見つめられて、ベッティはますます混乱してきた。この令嬢は自分相手に何を言っているのだろうか。まったくもって理解ができない。

「だって、さっきの湯あみの時、わたくしすごく気持ちがよかったもの。あれは誰もができることではないわ。ベッティがずっと頑張ってきたからこそなのよね」

 それは真実そうなのだが、こんなにもストレートに自分の努力をほめられたことがないベッティは、自分で思う以上に狼狽(ろうばい)していた。
 うれしいような恥ずかしいような、とにかく居ても立っても居られない。人はそれを、照れくさいと呼んだりもするのだが、今だかつてない感情を前に、ベッティはひたすら困惑した。

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