氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「いいいえぇ、これはただの仕事ですのでぇ。給金を得るために必要なだけですぅ」
「そうよね、ベッティは自分の力で生きているのだものね。わたくしもベッティを見習って、誰に頼ることなく立派に独り立ちして見せるわ!」
「えええぇ? そんなことになったらわたしの命が危うくなりますぅ」

 リーゼロッテに何を吹き込んだのだと、公爵に血祭りにあげられそうだ。ベッティは慌てて話をそらすことにした。

「それにしても湯あみの技をおほめ頂いてうれしいですぅ。このベッティがまたいつでもやってさしあげますよぅ。仕える方がいてこそのわたしなんですぅ。お願いですからリーゼロッテ様は大人しく伯爵令嬢に専念なさってくださいぃ」

 懇願(こんがん)というより(ひら)(あやま)りの勢いだ。そんな様子のベッティに、リーゼロッテは満面の笑みを返した。

「そうね、あれは本当に気持ちがよかったわ。思わず眠ってしまいそうなくらいよ」
「わぁ! そんなふうに言っていただけてうれしいですぅ。アンネマリー様はあまりお好きではなかったようですのでなおさらですよぅ」
「え? アンネマリーが?」

 あのゴールデンフィンガーに屈しないなどあり得るのだろうか? リーゼロッテが不思議そうな顔をすると、ベッティは自らの胸を両手で持ち上げる仕草(しぐさ)をした。

「アンネマリー様はあのたわわなお胸のせいでぇ、仰向(あおむ)けになるのがお(つら)かったようなんですぅ」

 そう言うベッティの胸もそれなりにたわわだ。背丈(せたけ)はほぼベッティとかわらないリーゼロッテは、思わず自分の胸に視線を落とした。

 以前よりも育ってきたとはいえ、自分が仰向けになると、このふくらみは悲しいくらいに平らになってしまう。あるはずの脂肪は一体どこへ行ってしまうのか。七不思議レベルで疑問に思う話だ。
 リーゼロッテは今にも泣きそうな顔をして、ベッティに向けて小さく唇をかんだ。

「ねえ、ベッティ。笑わないで聞いてほしいのだけれど……どうしたら、その、む、胸を大きくできるのかしら……?」

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