氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 その言葉にベッティはぽかんと口を開けた。

「そんなもの……公爵様に()んでもらえばよろしいのではぁ……」
「だ、だめよ! だってジークヴァルト様は、最近コルセットと詰め物で盛りに盛った(ニセ)の胸を見ているのよ! それを今さら本当は小さいんですだなんて言えないじゃない! 気づかれる前に大きくしたいの! おぉきく、したぃ、の……」

 だんだんと語尾が小さくなっていく。我に返った様子のリーゼロッテは、赤くなって可愛らしくうなだれている。

(そんな事とっくに公爵様はお見通しなのにいぃ……天使、天使がいますよ! カイ坊ちゃまぁ……!)

 ベッティはその可愛さに思わず屈しそうになってしまった。いや、もう屈してしまったのかもしれない。そう思うのも悔しいが、この令嬢はカイが言うように、ただ者ではないのかもしれない。

「わかりましたぁ! リーゼロッテ様のそのお心、察して余りありますぅ! このベッティが必ずやそのお胸、大きくして差し上げますよぅっ」
「ひゃっ何? ベッティっ」

 ベッティは背後から手を回して、いきなりリーゼロッテの胸を揉みしだき始めた。いきなりのことにリーゼロッテは身をよじる。

「逃げたらダメですよぅ。お胸は揉むのがいちばんですぅ! ベッティのこの手で毎日、揉んで揉んで揉みまくって差し上げますよぅっ」
「ひゃ、あ、いや、あ、んベッティっ」

 リーゼロッテの口からなんとも言えない声が漏れ出た直後、ごすっと何かが床に落ちる音がした。くんずほぐれつな体勢で(から)み合ったまま、ふたりは同時にそちらの方へと顔を向けた。

「ジークヴァルト様!?」

 そこにはラフな格好をしたジークヴァルトが、呆然(ぼうぜん)とした様子で立っていた。取り落とした箱を手にしていた形そのままに、固まったまま動かないでいる。

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