氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(わたしはいつだって周りに甘えてばかりだ)
 無言のまま、ハインリヒは拳をきつく握りしめた。

「お前はもっと、人を使うことを覚えた方がいい」

 不意にジークヴァルトが言った。暗に周りを頼れとにおわされ、ハインリヒはその端正な顔を歪めた。
 人を動かすことを苦手としている自覚はある。執務を引き継ぎ、多くの者に指示を出す。父王の存在は大きすぎて、王太子である自分に素直に従う者は、期待するほど多くはない。

「まずは実力を示さねば、人はついてこないものだろう」
 砂をかみしめるように言う。自分に足りないものを認めることは、思いのほか難しい。

「お前は十二分にやれていると思うがな」

 ジークヴァルトにそう言われても、素直には頷けない。王太子として、誰にも隙を見せるわけにはいかない。その立場にあぐらをかいて、努力を怠ることなどできるはずもなかった。

 だが実際は、自分は何もかもが中途半端だ。つなぎとめることも、断ち切ることも、守ることすら、本当に、何もかも――。

 流した汗の分だけ、冷えた空気が体温を奪い始める。

 一体どうしたらいいのか。自分がどうしたいのか。それすらもわからない。
 眠れない夜はいつまで続くのだろう。もしかしたら、この思いは永遠に付きまとうのかもしれない。

 ――はやくこの思いすべてが()てついてしまえばいい

 そんな日が来ることを、ハインリヒはただ一心に願っていた。

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