氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 バルバナスとアデライーデの関係はよくわからないものだ。上官と部下の時もあれば、父娘(おやこ)のような時もあり、兄と妹のような時もある。王兄殿下と公爵令嬢である場合もあるし、ただの喧嘩友達のように見えることもある。

 騎士たちの間ではふたりは恋仲なのだという噂もあるが、近くで見物している限りではそんな甘い関係にはまるで見えない。どちらかというと、バルバナスが保護者のようにアデライーデを囲って、ただ大事に守っているだけだ。どうやらアデライーデはそれがおもしろくないらしい。

 アデライーデはもう二十歳(はたち)を超えている。平民ならばともかく、公爵令嬢にしては()き遅れと言わざるを得ない年齢だ。それはバルバナスのせいだとニコラウスは思っているのだが、あながちそれは間違いではないだろう。

 むさい男所帯で紅一点であるアデライーデが、こうも無防備でいられるのはバルバナスの存在があるからだ。騎士団の総司令官であり、王兄(おうけい)殿下であるバルバナス相手に喧嘩を売る命知らずは、この騎士団の中にいるはずもなかった。

(それでも間違いは起きることもある)

 アデライーデに口を酸っぱく言ってもどこ吹く風だ。余計なお世話と思いつつも、ついつい口を出してしまうのは、損な性分だとニコラウス自身も思わなくもない。

「なあ、アデライーデ……バルバナス様を試すようなことはもうやめろよ」

 おそらくアデライーデは、バルバナスのことが好きなのだろう。ニコラウスはそう踏んでいるのだが、当のバルバナスはアデライーデに男を近づけさせない割に、自分が手を出す様子は全くない。その煮え切らない態度に、アデライーデが腹を立てるのはわからないでもないのだが。

「言ってる意味がわからないんだけど」
「あーそうかよ。お前ら、ほんとめんどくせーな」

 投げやりに言うと、ニコラウスは栗色の髪をがしゃがしゃとかきむしった。

 つかず離れずなふたりを見ていると、つい自分の本心を言ってしまいそうになる。大きくため息をついた後、ニコラウスは先ほどアデライーデにかけたコートを、無造作に取り戻した。

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