氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(そうよ。抱っこ輸送されていた時よりは、格段にマシにはなっているんだわ)

 そう思うと踏みしめる一歩一歩が感慨深い。ふと廊下の端々に異形の者が垣間見えた。あれほど怖がっていたその影も、今ではほとんど恐怖を感じることはない。基本、放置されているような異形は、害をなさない弱いものばかりだ。

(時間があれば、あの子たちの話も聞いてあげられるのに)
 異形たちのさみしげな波動を感じながら、リーゼロッテはその横をただ通り過ぎた。

 王太子の応接室にたどり着くと、王子は不在のようだった。ジークヴァルトに促されて、勝手知ったる部屋の奥へと進む。すると、いつも座っていたソファの影から、何かがひょこりと顔を出してきた。

「まあ、あなたたち……!」

 驚いた声を上げると、小さな異形の者が三匹、ぴょこんと飛び出してくる。
 それは以前、リーゼロッテが浄化を試みていた異形たちだった。ブサ可愛くおめめをきゅるんとさせて、じっと見上げてくる。うれしそうな波動が伝わってきて、リーゼロッテも自然と笑みを返した。

「ずっとここにいたの? あのときはごめんなさい。わたくしがまだうまく力を扱えなかったから……」
「今はダメだ」

 不意に後ろから抱え込まれる。そのまま抱き上げられると、定位置のソファの上にそっと下された。ジークヴァルトが近づくと、異形たちは慌てたように部屋の(すみ)に逃げてしまった。

「当分ダメだ」

 そう言いなおしたジークヴァルトに、リーゼロッテは困ったような顔を向けた。どのみち小さな異形は、守り石の効果で自分には近づけない。それはジークヴァルト自身がよくわかっているだろうに、いくらなんでも心配し過ぎだ。

 そうは言っても迷惑ばかりかけている自覚はある。ジークヴァルトの心労を軽くするためにも努力しなくては。

「わたくし、ちゃんとヴァルト様の言われた通りにいたしますわ」
 とりあえず今は、信用貯金を貯めようと、リーゼロッテは安心させるように頷いた。

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