氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「公爵様は王子殿下のお部屋でどうぞお召し上がりくださいませねぇ。さぁさ、リーゼロッテ様は公爵様をお見送りいたしましょうかぁ」

 リーゼロッテの手を引くと、ベッティはすたすたと隣の書斎へと連れて行ってしまった。

「おい」

 ジークヴァルトが慌てたようにそれに続く。書斎に行くと、リーゼロッテとベッティが本棚の前で並んで立っていた。

「さぁ、公爵様ぁ、お帰りはこちらですよぅ」

 ぎゅっと眉間にしわを寄せたまま、ジークヴァルトはなかなか動こうとしない。公爵相手に高圧的な態度を取るベッティを、リーゼロッテは横でハラハラしながら見守っていた。

「公爵様ぁ、ここは王妃様の離宮なんですよぅ。もっとご自分のお立場を自覚なさいませんとぉ、お困りになるのはあなた様の方かと思われますがぁ。それとも何ですかぁ? ここへは出禁になってもかまわないぃ、そうおっしゃるのでしょうかねぇ?」

 その言葉に、ジークヴァルトがぐっと言葉を飲み込むのが分かった。そのまま不服そうに本棚へと手を伸ばす。本の一冊を押し込むと、本棚が重い音を立てて横へとスライドしていった。
 冷やりとした風が部屋へと流れ込こむ。微かに揺れるリーゼロッテの髪に手を伸ばすと、ジークヴァルトは指でひと房すくい取った。

「明日、夜には戻る」
「はい、お帰りをお待ちしておりますわ」

 帰る場所は公爵家なのに、とんちんかんな受け答えをしてしまった。直後にそう思ったが、ジークヴァルトは「ああ」とそのままスルーしてくれたようだ。名残惜しそうな緩慢な手つきで、指にからめた髪をさらりさらりとこぼしていく。

 早く帰れと笑顔で圧をかけてくるベッティを睨みつけながら、ジークヴァルトは通路の暗がりへと足を踏み入れた。リーゼロッテをじっと見つめたまま、カチリとどこかのボタンを押す。本棚がスライドしていって、やがてジークヴァルトの姿は見えなくなった。

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