氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 今、リーゼロッテは王妃の離宮にいると聞く。身の安全が確保されているなら、次に優先すべき事くらい、子供でも分かるというものだ。

 エッカルトの隣にマテアスとユリウスが並んでいるが、ユリウスはこういった時あまり役に立たない。
 ユリウスはエーミールの叔父であるのと同時に、アデライーデの父ジークフリートの従兄(いとこ)でもある。(れっき)としたレルナー公爵家の人間だが、中身はただの女好きの遊び人だ。ジークヴァルト不在の穴を埋めるべくこの場にいるのだろうが、立場的に同席しただけで、この場をまとめる気などさらさらなさそうだ。

「屋敷にいる力ある者は全員連れてこい。ひとりも欠けんじゃねえぞ」

 バルバナスの強い語調に、エッカルトは「仰せのままに」恭しく腰を折った。

「アデライーデ、お前はついてくるなよ」
「……公爵家の人間として、行く義務はあるはずだわ」

 先ほど、屋敷にいる力ある者は漏れなく集まるように言ったのはバルバナスだ。

「いいや。休暇を与えたとしてもお前は騎士団の一員だ。身内の捜査に関わらせるわけにはいかねえな」

 そう言いながらも、その実はアデライーデに危険なことをさせたくないだけだ。

 リーゼロッテの護衛でダーミッシュ領へ赴く時ですら、バルバナスは最後まで難色を示していた。まして今回は禁忌と言われる異形の者の調査だ。そんなものにバルバナスがアデライーデを近づけさせるとは思えない。
 それでもアデライーデが反論しかけると、バルバナスは有無を言わさぬ声で短く言った。

「命令だ」

 その言葉に一瞬ぐっとこらえる表情をした後、アデライーデは騎士服のまま優雅にスカートをつまみ上げる仕草をした。

「仰せのままに。王兄殿下」
 にっこりと礼を取ったかと思うと、ぷいと顔をそらしてその場を後にする。

「ああ? どこに行くつもりだ?」
「わたくし、休暇中ですの。久しぶりの生家でゆっくり過ごすだけですわ」

 それだけ言い残すと、アデライーデは振り返りもせずその場を後にした。数人の侍女が慌てたようにその後を追う。

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