氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ねえ、ベッティ。先ほど湯殿でわたくしの、その、裸は見えてしまっていたかしら……?」

 頬を赤らめながら問うリーゼロッテに、ベッティは安心させるように頷いて見せる。

「ご安心くださいぃ。湯煙でぼんやりとしかお姿は見えませんでしたからぁ」
「そう、ならよかったわ」

 リーゼロッテがほっと息をつく。

 公爵は目を皿のようにして凝視していたが、何がどこまで見えたのかは正直ベッティにもわからなかった。だが、いたずらに動揺させるのは、公爵の思うつぼのような気がしておもしろくはない。一瞬の隙をつかれて、あっさり奥への侵入を許してしまったのが悔やまれる。

「公爵様をお止めできなくて申し訳ございませんでしたぁ。次は命に代えても死守して見せますぅ」
「ねえ、ベッティ。ジークヴァルト様相手に、その、あまり強く言うのはよくないんじゃないかしら……。ベッティの立場が悪くなったりしないか心配だわ」

 リーゼロッテは心配そうにベッティの顔を覗き込む。それを見やって、ベッティはふっと笑った。

「リーゼロッテ様はぁ、本当におやさしいですねぇ」

 替えのきく自分ごときを気に掛けるなど、正直貴族のやることではない。偽善ぶっていて、頭にお花畑が生えているようなリーゼロッテは、何から何までベッティの気に障る存在だ。

「わたしは王妃様の命で動いているカイ坊ちゃまの指示のもと、リーゼロッテ様をお守りしていますぅ。カイ坊ちゃまの言葉は王妃のお言葉。ひいてはわたしの言動はカイ坊ちゃまの指示であり、王妃様の(めい)も同然なんですぅ」

 極論のような気もするが、ベッティは自信満々に胸を反らした。

「そう、ならよいのだけれど。でも、もしもジークヴァルト様に何か言われて困ったことになったら、ちゃんとわたくしにも相談してね?」

 気づかわし気な表情に、ベッティは再び苦笑いを向けた。こんな大嫌いの塊であるリーゼロッテの笑顔を守ってやりたいと思うほど、結局のところ自分も浮かれポンチな満たされた境遇にあるということだ。


 たとえこれから迎える未来が、何ひとつとしてままならないものだとしても。

「リーゼロッテ様はぁ、ずうっとそのままでいてくださいましねぇ」

 今が満たされているというのなら、リーゼロッテを好きでいるこの自分もそんなに悪いものではない。そう思って、ベッティは満足そうに頷いた。




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