氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ジークヴァルトがあわや浴室に足を踏み入れようとしたその瞬間、扉の向こうから一本の手がにゅっと伸びてきた。その手がジークヴァルトの襟首をはしっと掴んだかと思うと、そのままジークヴァルトをぐいと浴室の外へと引っ張り出し、すぱんと扉は閉められた。

 扉の向こうで何やら話し声がする。ほどなくして、再びそっと開いた扉から顔を出したのはベッティだった。

「リーゼロッテ様ぁ、何事ですかぁ?」
「湯の中で足を少し滑らせてしまって。大げさにしてごめんなさい。なんともないわ」
「承知いたしましたぁ。また後程、お伺いいたしますぅ」

 それだけ確かめると、ベッティは顔を引っ込め再び扉は閉められた。

 じょぼじょぼと湯が流れる音がする。時折天井からしずくが落ちて、ぴちょんとリーゼロッテのそばで小さく跳ねた。

(み、み、み、見られたの!?)

 今さらの事だが、慌ててざぶりと湯に潜り込む。確かに体は湯につかっていたはずだ。湯船は濁り湯でその中は見えはしない。

(でも肩まで浸かってた? 胸は? 出てた? 隠れてた?)
 てんぱりすぎて沈めた口元で空気がぶくぶく言いまくっている。

「いやぁ! まだバストアップはこれからなのにっ!!」

 ざばあと立ち上がって叫んだところで、ベッティが湯煙の中戻ってきた。

「さぁ、湯冷めする前に髪を乾かしましょうかぁ」
 のほほんとした口調でリーゼロッテを湯船から引き上げる。

「ヴァルト様は今どうしていらっしゃるの……?」
「公爵様なら王子殿下のお部屋に戻っていただきましたぁ。明日またいらっしゃるようにと、お願いいたしましたので、今宵はご安心してぐっすり眠りくださいましねぇ」

 夜這いになんぞに来たら叩き出してやる。そんなベッティの胸中など知る由もなく、リーゼロッテは呆然自失で湯から上がった。

 上機嫌で髪を乾かすベッティに、リーゼロッテは不安げな視線を送る。

< 512 / 684 >

この作品をシェア

pagetop