氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ダーミッシュ嬢!」

 ジークヴァルトの腕の中で、リーゼロッテが力なく崩れ落ちる。片膝の上にその背を乗せ、ジークヴァルトは震える手つきで、色を失った唇に小さな菓子を差し入れた。
 咀嚼(そしゃく)されることなく、その菓子は雪の上にこぼれ落ちた。リーゼロッテの顔色は、もはや蝋人形のように白い。

 懐から取り出した小瓶の蓋を親指の腹で乱暴に開けると、ジークヴァルトはその中身を一気にあおった。
 ためらいなくジークヴァルトはリーゼロッテに口づけた。冷たい唇を自らの舌でこじ開け、含んだ糖蜜をその口内へと注いでいく。

 こくりとのどが鳴る音がした。少しずつ少しずつ、リーゼロッテの嚥下(えんげ)に合わせるように、残りの蜜をその中へと落としていった。

 含んだ蜜がなくなると、ジークヴァルトは一度唇を離した。微かな呼吸がゆっくりと繰り返される。後ろ手に手のひらを向けると、すかさずマテアスが同じ小瓶をその手に乗せた。
 その中身を一気にあおる。再びリーゼロッテの唇を塞ぎ、確かめるようにゆっくりと蜜を注ぐ。

 こくりとのどを鳴らしながら、リーゼロッテの舌がもっととそれを求めてくる。応えるように舌を絡ませ、ジークヴァルトは慎重にすべての蜜を流し込んだ。

 最後のひとくちを飲み込むと、リーゼロッテは小さく息をついた。頬に赤みがさしている。ほっとするのも束の間、晴れた空が急激に曇りだし、一気に雪が吹きすさび始めた。

「ちっ! 撤退だ! 動ける奴は意識のない者を順に運べ! ひとりも忘れず回収しろよ!」

 そう叫んだバルバナス自身も、近くで倒れ伏していた騎士をひとりその肩へと担ぎ上げた。
 去り際に振り返る。泣き虫ジョンを包んだ繭玉は、(またた)く間に吹雪に覆い隠されていく。

 雪に埋もれて誰ひとり近寄れなくなった異形の調査は、春の雪解けを迎えるまで、一時、打ち切られることとなった。

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