氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(それを思うと今の状況も、すべて自分が招いたことなんだわ)

 あの日、バルバナスの手を取ったからこそ、今の自分がいる。周りの環境のせいにして、嘆いてばかりいても状況は何も変わりはしない。

 人生とは選択の連続だ。
 選択して、選択して、選択して、たどり着いた先こそが、今、この時だといえるだろう。例えそこに、抗えない出来事があったとしても、目の前にいくつも選択肢は並べられていたはずだった。

(何もしないまま誰かにゆだねるだけの選択は、絶対にもうしたくない)

 ウルリーケに会いに来たのもそのためだった。今はまだ反抗の意思表示にしかならないかもしれないが、従順なままの自分ではないことは伝わったはずだ。

「アデライーデ様……」
 目立たぬよう控えていたエマニュエルが心配そうに近づいてきた。

「大丈夫よ。エマ、つき合わせて悪いわね」
「そのようなことは問題ありません」

 エマニュエルにだけはいつも本音を漏らしてしまう。つい甘えてしまうのは、いけないと分かっていても。

「情けないわね。こんなことしながら、自分が本当にどうしたいかなんて、まるでわかっていないのよ」

 バルバナスの元を離れたとして、自分に何ができるだろうか? フーゲンベルク家に戻ったところで、ジークヴァルトの世話になるだけだ。いかず後家の姉のいる家に嫁ぐなど、リーゼロッテにしてみればいい迷惑だろう。

「騎士としても中途半端だし、この先どうやって生きていこうかしら」

 バルバナスは絶対にアデライーデに危険な任務をさせることはない。自分が赴く場所へ連れて行くことはあっても、基本はお飾りの立場だ。周囲もそれが当たり前になっていて、女のくせにと陰口をたたかれているのも知っている。
 それが悔しくて、人並み以上の努力をして剣の腕だけは磨いてきた。そこら辺の騎士相手になら、引けは取らないほどの自信はある。

「どなたかお慕いする殿方はいらっしゃらないのですか?」
「殿方ね……」

 何しろバルバナスがあの調子なので、自分に近寄ってくる男などひとりもいやしない。まともな付き合いがあるのは、貴族出身の限られた騎士くらいだ。

「ニコラウス・ブラル様とは親しくされておられるのでしょう? あの方なら伯爵家のお世継ぎですし、アデライーデ様とつり合いもとれるのでは?」
「ニコ? 駄目よ、あのたれ目は」

 ニコラウスは跡目を継ぐ気はないと常々公言している。だが仮に、公爵令嬢であるアデライーデを妻に迎えるとなると、そうも言っていられなくなるだろう。

「でも、そうね。確かに、誰かそういう相手がいれば、話はまた違ってくるかもしれないわね……」

 好いた男のひとりでもいれば、この先どうしていくべきか、行く先が見えてくるかもしれない。

「これからは夜会にも積極的に出ようかしら」

 その言葉にエマニュエルの顔が輝いた。貴族女性として、良縁の求めるのがいちばんのしあわせであると、エマニュエルはそう考えるひとりだった。アデライーデを心から慈しむ存在がそばにいてくれたのならと、何度そう思ったことだろう。

「わたしもお供させていただきます」
「エマがいればダンスの相手には事欠かないわね」

 エマニュエルにダンスを申し込む男は多い。ブシュケッター子爵はいつもそれを心配しているが、その妖艶な容姿とは裏腹に、エマニュエルの身持ちは岩のように固かった。

「とりあえず交友関係を広げることから始めるわ」

 白の夜会に出て、意外とダメージが少なかったことを思い出す。負った傷に関してひそひそと囁かれていたのには気づいていたが、それもさほど気にはならなかった。

 僅かばかりでも光明が見えてきた。そんな気がしてアデライーデは、悪だくみをする子供のごとく口元に悪戯な笑みを作った。

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