氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(それにしても、きらびやかな世界ね)
思い思いに着飾った貴族たちが、目の前を行き交っていく。自分がこの世界の住人であることに、いまだ慣れないリーゼロッテだ。
「あの眼帯……」
アデライーデが白の夜会でつけていたようなゴシック調の眼帯で着飾る淑女が目に入った。
「白の夜会のあと、マダム・クノスペの元に注文が殺到したらしいですわ」
エマニュエルの言葉に会場を見回すと、幾人も眼帯をつけた夫人がいるのが目に入った。
「しみやしわ隠しに、年配のご婦人に大うけしているそうですわ」
「そ、そうなのですね」
思わぬところに需要があったものだ。リーゼロッテがさらに会場を見回すと、ふとピンクブロンドの令嬢が目に入った。
「あ、あの方……」
この国ではピンクブロンドは珍しい髪色だ。
(ジークヴァルト様に婚約破棄を言い渡されることはなさそうだけど……)
リーゼロッテの中で、乙女ゲームの悪役説はいまだ残ったままだった。ピンクブロンドの可愛らしい令嬢がいたら、それはゲームのヒロインに違いない。そんな偏見と思い込みの中、リーゼロッテはその令嬢を凝視した。エマニュエルが同じ方向へと視線を巡らせる。
「どの方のことでしょう?」
「ほら、あのピンクの……」
そこまで言うと、その令嬢がこちらを振り返った。しかしその令嬢は、ピンクの羽がついたゴシック眼帯をつけた、かなり年配のご婦人だった。
「あちらはティール公爵のご母堂様ですわ。あの方がどうかなさいましたか?」
「い、いいえ……ピンクブロンドの方かと思ったのですが……」
その実、年甲斐もなくピンクで着飾ったご婦人だった。楽しそうな甲高い笑い声をあげては、周囲を苦笑いさせている。
「あの方は昔からピンクのお色が好きでいらっしゃいますから」
エマニュエルは苦笑しながらも丁寧に解説してくれた。
(はや〇やパー子さん……)
リーゼロッテが陽気にカメラをパシャパシャ撮る姿を思い描いていると、エマニュエルがふふと笑った。
「ピンクブロンドの髪をした方は、滅多にいらっしゃいませんからね」
「最近デビューされたご令嬢に、どなたかいらっしゃらないでしょうか?」
リーゼロッテの問いかけに、周囲にいた者たちが困惑気味に目を合わせる。
「若いご令嬢でピンクブロンドの方はいないかと」
「そうね、心当たりならおひとりだけいらっしゃるけれど……」
エマニュエルの言葉を引き継ぐように、クリスタが小首をかしげた。
「まあ! どなたですの、お義母様」
前のめりに聞くリーゼロッテを不思議そうにみやりながらも、クリスタはにっこりと笑顔を返した。
「テレーズ王女殿下よ」
「え? テレーズ様?」
この国の第二王女であるテレーズは、数年前に隣国の王子へと嫁いでいる。
(乙女ゲーム、既に終了説濃厚……?)
こてんと首をかしげて、リーゼロッテは隣に座っているジークヴァルトの顔を見上げた。
「あの、ジークヴァルト様、今後、婚約破棄のご予定などは……」
「? そんなものあるわけないだろう」
突然の発言に、ジークヴァルトの眉間にしわが寄せられたのは言うまでもなかった。
思い思いに着飾った貴族たちが、目の前を行き交っていく。自分がこの世界の住人であることに、いまだ慣れないリーゼロッテだ。
「あの眼帯……」
アデライーデが白の夜会でつけていたようなゴシック調の眼帯で着飾る淑女が目に入った。
「白の夜会のあと、マダム・クノスペの元に注文が殺到したらしいですわ」
エマニュエルの言葉に会場を見回すと、幾人も眼帯をつけた夫人がいるのが目に入った。
「しみやしわ隠しに、年配のご婦人に大うけしているそうですわ」
「そ、そうなのですね」
思わぬところに需要があったものだ。リーゼロッテがさらに会場を見回すと、ふとピンクブロンドの令嬢が目に入った。
「あ、あの方……」
この国ではピンクブロンドは珍しい髪色だ。
(ジークヴァルト様に婚約破棄を言い渡されることはなさそうだけど……)
リーゼロッテの中で、乙女ゲームの悪役説はいまだ残ったままだった。ピンクブロンドの可愛らしい令嬢がいたら、それはゲームのヒロインに違いない。そんな偏見と思い込みの中、リーゼロッテはその令嬢を凝視した。エマニュエルが同じ方向へと視線を巡らせる。
「どの方のことでしょう?」
「ほら、あのピンクの……」
そこまで言うと、その令嬢がこちらを振り返った。しかしその令嬢は、ピンクの羽がついたゴシック眼帯をつけた、かなり年配のご婦人だった。
「あちらはティール公爵のご母堂様ですわ。あの方がどうかなさいましたか?」
「い、いいえ……ピンクブロンドの方かと思ったのですが……」
その実、年甲斐もなくピンクで着飾ったご婦人だった。楽しそうな甲高い笑い声をあげては、周囲を苦笑いさせている。
「あの方は昔からピンクのお色が好きでいらっしゃいますから」
エマニュエルは苦笑しながらも丁寧に解説してくれた。
(はや〇やパー子さん……)
リーゼロッテが陽気にカメラをパシャパシャ撮る姿を思い描いていると、エマニュエルがふふと笑った。
「ピンクブロンドの髪をした方は、滅多にいらっしゃいませんからね」
「最近デビューされたご令嬢に、どなたかいらっしゃらないでしょうか?」
リーゼロッテの問いかけに、周囲にいた者たちが困惑気味に目を合わせる。
「若いご令嬢でピンクブロンドの方はいないかと」
「そうね、心当たりならおひとりだけいらっしゃるけれど……」
エマニュエルの言葉を引き継ぐように、クリスタが小首をかしげた。
「まあ! どなたですの、お義母様」
前のめりに聞くリーゼロッテを不思議そうにみやりながらも、クリスタはにっこりと笑顔を返した。
「テレーズ王女殿下よ」
「え? テレーズ様?」
この国の第二王女であるテレーズは、数年前に隣国の王子へと嫁いでいる。
(乙女ゲーム、既に終了説濃厚……?)
こてんと首をかしげて、リーゼロッテは隣に座っているジークヴァルトの顔を見上げた。
「あの、ジークヴァルト様、今後、婚約破棄のご予定などは……」
「? そんなものあるわけないだろう」
突然の発言に、ジークヴァルトの眉間にしわが寄せられたのは言うまでもなかった。