氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 宴もたけなわの中、突然悲鳴が響き渡った。それを皮切りに、あちこちで混乱が巻き起こる。
 ある者は気分が悪くなって倒れ込み、ある者は錯乱したように周囲の者を傷つけようとする。王たちがいる壇上へも、数人の貴族が意味不明な言葉を叫びながら、剣を振り上げなだれ込んできた。

「王と王妃殿下はこちらへ」

 いち早くふたりが騎士たちに守られ、奥へと誘導されていく。その姿には目もくれずに、錯乱した一団は、ハインリヒへとまっすぐに向かっていった。

「王太子だ! 王太子の首を女神に差し出すのだっ」
 煽るようにどこからか声が響き、かばうように剣を受けた近衛騎士が薙ぎ飛ばされていく。

(狙いはわたしなのか?)

 ハインリヒも剣を抜き応戦に回るが、すぐに自身を守るように、近衛騎士の壁が目の前にでき上がった。

「この者たちは正気ではありません。すぐに安全な場所へお逃げください」

 目の前にいる者たちが、異形に憑かれていることはすぐに分かった。だが、夜会で貴族の帯剣は禁じられている。それがあっさり持ちこまれている様子を見ると、何か意図的なものを感じずにはいられなかった。

「王太子殿下、お急ぎください!」

 狙いが自分ならば、ここにいるのは足手まといだ。異形が原因というのなら、守りが張られている場所へと逃げ込めば、とりあえず奴らは手を出せなくなる。

「ハインリヒ様」
 背後からカイの声がする。

「こちらへ」

 振り向くと騎士服に着替えたカイが、王族用の出入り口の扉を開けて手招きをしていた。頷いてそちらへと駆け込んだ。扉が閉まる寸前に襲い掛かる貴族を、カイが剣で薙ぎ払った。

 鍵をかけ、その場をすぐに離れた。あちら側から人の力とは思えないほどの振動で扉をたたく音がする。

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