氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「殿下? そこにいるのか?」

 隙間から覗くも、猫の殿下は姿をあらわさない。仕方なくそのまま閉めようとすると、前触れなく扉の縁をガっと掴まれた。そのまま乱暴に開け放たれる。剣を振りかざした邪気を纏う貴族が、ハインリヒに襲い掛かった。

 アンネマリーが声なき悲鳴を上げる中、ハインリヒは冷静に(さや)に収めたままの剣を、込めた力と共にその騎士へと突き上げた。騎士は打たれた以上の力で跳ね返され、床にもんどりうって動かなくなる。

 再び扉をきつく閉め、ハインリヒは鍵を素早くかけた。

「やはり罠だったか」
 そうひとりごち、小さく息をつく。明らかに仕組まれた混乱だ。どこかにこの騒ぎの元凶がいるはずだ。

「王子殿下……」

 消え入りそうな声に振り返る。気の弱い令嬢ならば、今頃は気絶していてもおかしくないだろう。気丈にもそこに立つアンネマリーを、ハインリヒは眩しそうに見た。

 開けた扉から、不穏な波動が掻き消えていく気配が感じられた。それと共にざわついていた異形たちも静まっていったようだ。おそらくバルバナスたち騎士団が城塞から到着したのだろう。そう結論付けて、ハインリヒは安心させるようにアンネマリーに静かに言った。

「問題ない。殿下は気まぐれだ。今頃わたしの部屋にいるだろう。それに、伯父上が到着したようだ。(じき)に騒ぎも平定される。だからもう少しだけ辛抱してほしい」

 泣き笑いのような表情になって、アンネマリーは小さくうなずいた。

< 619 / 684 >

この作品をシェア

pagetop