氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「君が好きだ、君が好きだ、君が好きだ、君だけを、愛している……!」

 絞り出すような声に、アンネマリーは水色の瞳を見開いた。夢を見ているのだと思った。ハインリヒを思うあまり、あり得ない妄想を思い描いているのだと。

「君が泣いて嫌がっても、もう駄目だ。君をもう、わたし以外の誰の手にも触れさせたくない」
 ハインリヒは苦しそうに耳元でささやき続ける。

「虫のいいことを言っているのはわかっている。君を散々苦しめて、あれほど傷つけておきながら……」
「ハインリヒ様」

 アンネマリーは、そっとハインリヒの頬に手を添えた。想像していた以上にやわらかな頬に、一瞬戸惑い、アンネマリーはその手をひこうとする。上から添えるように、ハインリヒの手がアンネマリーのその手をとった。

「わたくしは、ハインリヒ様に傷つけられてなどおりません」
 アメジストのような紫の瞳をまっすぐ見つめて、アンネマリーは泣きそうな顔で微笑んだ。

「わたくしもずっと、ずっと、ハインリヒ様のことを、お慕い申し上げて……ん」

 最後まで言葉を紡ぐ間もなく、アンネマリーは唇を塞がれた。

 何度も、何度も、ついばむように。そして、深く、長く――

「アンネマリー……アンネ、マリィ……」
「ハインリヒ、さ……ま」

 吐息と共に、言葉が溶けていく。苦しそうに息継ぎをしたアンネマリーの口内に、ハインリヒの舌が潜り込む。

「ん……ん、ぁん」

 髪の奥に隠された対の託宣の証を指で弄びながら、ハインリヒの空いた手がアンネマリーの背中をなぞっていく。灯る熱に翻弄されて、アンネマリーの体から力が抜けていく。
 そのままの勢いで、ハインリヒはアンネマリーを床の上に押し倒そうとした。

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