氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「どうかしら着心地は?」

 扉の向こうから声をかけられ、アンネマリーはあわててガウンを羽織った。長く厚手のそれを着ると、ほっと人心地がする。念入りに腰ひもを結んでいると、そのままでいいから来るように言われて、アンネマリーはガウン姿で居間へと戻った。

「一晩着てみて、今度着心地を教えてちょうだい」

 妖し気に笑みを()くイジドーラに、アンネマリーは素直に頷いた。王妃ブランドは特に既婚者たちから人気が高い。夫人同士のお茶会で、そんな話題がよく上っていた。それは大人向けなラインナップのせいなのだと理解して、アンネマリーは赤面せずにはいられなかった。

「ときにアンネマリー。ハインリヒとはうまくやっていて?」
「はい、ハインリヒ様はいつでもおやさしくて……。格好良くて素敵で頼りになって……」

 ポーっとした表情でアンネマリーが言う。アンネマリーはいつもハインリヒの端正な横顔に見とれてしまっていた。ずっと見ていて飽きないほどのきりりとしたその姿に、ついついため息が漏れてしまう。

 しかし公務中にそんな態度をとるわけにはいかないので、アンネマリーは顔を引き締めるのにいつも苦労している。しかし、ふいに昼間のハインリヒの疲れた顔を思い出して、アンネマリーはその表情を曇らせた。

「ですが、ここ数日は特にお疲れの様子で……。わたくしハインリヒ様が心配ですわ」
「アンネマリー、よくお聞きなさい」

 イジドーラの真剣な声音にアンネマリーははっと居住まいを正した。

「この国の王は、その王冠を降ろすまで人たり得なくなる……のしかかる重圧は誰ひとりとして理解できないものよ。その孤独を癒すのがわたくしたち王妃の務め。――アンネマリー、ハインリヒのこと、よろしく頼むわね」

「……はい、イジドーラ様」

 頬に手を添えられ、妖艶にほほ笑まれる。魅入られたようにイジドーラの瞳を見つめ、アンネマリーは小さく頷いた。
 イジドーラは満足そうに頷き返すと、さらに妖しげな笑みを向けて来る。

「それで、アンネマリー。今すぐにでもハインリヒに会いたいとは思わなくて?」
「会いたいです! わたくし、いつだってハインリヒ様に会いたいですわ」

 焦がれるようなその返事に、イジドーラの蠱惑(こわく)の唇が再び妖艶に弧を描いた。

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